豪雨に想う

 台風一過の青空がひろがっている。風がまだ強い。少し赤くなりだした庭のヤマボウシが、気まぐれに吹きまわる風に揺れている。今日は好天に恵まれそうだ。

 昨日の昼過ぎに所用で豊田方面を車で走っていた。あの台風の中をね。雨滴の強い時はワイパーをハイにしても視界が効かない。道は、排水が確保されているはずの幹線でさえあちこちに水たまり……じゃないな、池ができている。それを大型車のタイヤが踏んでいくと、水しぶきが高々と上がって、フロントガラスを襲ってくる。そうなると前がまったく見えなくなる。だからワシャは途中からライトを点けて走った。もちろんライトを点けても、見通しがよくなるわけではない。あくまで対向車にこちらの存在を知らせるためのもので、そうしないとグレーなどの色の車は、雨滴に紛れて見えなくなる。相手に注意を促すために点灯しているのである。しかし、ライトを点けていない車も多く、時おりヒヤッとすることがあった。他者の視点に立てない人なんだな。
 前述した水たまりだってそうさ。おおかた路肩に水が溜まる。だからいつもどおり真っ直ぐに走れば水たまりをタイヤが踏んで歩道や対向車線に大量の水しぶきを飛ばすことになる。これもほんの少しだけ速度を緩めたり、タイヤのラインをずらすだけで水しぶきを小さくできるのである。状況に応じでドライビングを変えていかなければいけないのに、真面目というか不器用というか、晴れた日も雨の日も雪の日も同じように走っていてはだめだ。
 
 雪の日で思い出した。昔のことである。冬になると毎週のように雪山に出かけた。スキーに狂っていたんですな。当時、ワシャは4WDのワゴン車に乗っていた。タイヤはスパイクだ。この組み合わせだと、よほどの雪道でも縦横に走ることができる。それでもね、急坂のあるところでスタックすると他のスキーヤーに迷惑なので、早めにチェーンを巻くようにしていた。
 これがけっこう好きでした。山間部に入る前にだいたいどこの幹線道路も広いチェーン装着場を設けている。そこに停車するとおもむろに後部ハッチからチェーンをジャラジャラと取り出す。ワシャはジャッキアップしなくても装着する技を持っていたが、それでもあえてジャッキアップをする。そのほうがチェーンがしっかりと装着できるし、ジャッキアップするのもお手の物で、そのころ一緒に行っていた後輩との分業が出来ていて、かなりのスピードで確実に装着できた。その時に少し吹雪いているとなおよろしい。
 初めてスキーに連れてきた女の子(女の人)は、それでなくてもすべてが初体験だ。路上で吹雪かれるなんていうのは下界の日常ではないだろう。降りしきる雪の中で運転席と助手席の男どもがジャラジャラ音を立てながらなにかを始める。テキパキとチェーンを装着しているんですね。女の子は暖かい車内に残したまま、雪にまみれながら。これが頼もしく格好いいんだ(そう思っている)。
 
 豪雨の中を車で走っていてそんなことを考えニソニソしていた。