昨日、「錦秋名古屋顔見世」に行く。今度は昼の部である。週初めに夜の部を見て、週末に昼の部とは、なんと遊び呆けていることか……と言わないでね。なにしろ地方にいると歌舞伎を観る機会は少ない。だから名古屋に来た折には、かためて見るようにしている。
演目は三つ。初手は「恋女房染分手綱」(こいにょうぼうそめわけたづな)。物語は13段にも及ぶ長く複雑なもので、その一番判りやすいところが、チョイスされて上演されている。状況は説明しきれない。ただ生き別れになっていた母(重の井)と子(三吉)が丹波の城で出逢うのだが、主家への義理や武家の対面のために、ついに名乗らずに泣く泣く旅立っていく……というような話で、子役がかなり重要な役を果たす。今回の子供は巧かったなぁ。とにかく歌舞伎の子役のセリフ回しは抑揚をつけてはいけない。ひたすら棒読みにすることが求められる。そういった意味では今回の子供は無難に演じきった。以前に名古屋の劇団にでも所属している女の子が登場したことがあったが、どうしても気持ちがこもってしまうらしく、通常の舞台劇のようにセリフに抑揚がついてしまった。あれは歌舞伎そのものを壊していたなぁ。
子役はよかったのだが、なにしろ退屈な演目で爆睡をしてしまった。
二つ目は、ご存じ「番町皿屋敷」である。あの井戸からあらわれるお菊さんの話ですな。ただし幽霊のお菊さんは出てこない。お菊さんがお手打ちに合うまでの、青山主膳(旗本)とお菊の事情と情事が描かれる。ワシャはけっこう好きな演目である。作は岡本綺堂、香り立つ江戸の市井を描かせたらこの人の右に出る人はおりません。その人が「皿屋敷」を書くのだからおもしろいに決まっている。
それにね、若き旗本の青山播磨が白柄組のメンバーなんですよ。白柄組と言えばご存じ版随院長兵衛の敵役の水野十郎左衛門が組織する旗本奴のお歴々だ。だから話の中にも水野十郎左衛門の名前が出てくる。水野十郎左衛門は、この日記にも何度も登場しているけれど、当時の江戸幕府の侍たちの中では傑出しておもしろい人物である。その生き様もある意味で潔い。歌舞伎では版随院長兵衛の敵役として登場するが、その描かれ方は必ずしも悪くない。格好いいピカレスクである。その弟分として登場する青山播磨も喧嘩っ早いが一本筋の通った武士として描かれている。それゆえに愛するお菊を手打ちにしなければならないジレンマに陥るのが悲しい。
そのお菊である。中村壱太郎が演じる。坂田藤十郎の孫、中村翫雀の息子である。短躯の翫雀に比べるとほっそりとして背もほどほどにあるので、女形としてはいいニンを持っている。
舞台自体はよかった。が、疲れが溜まっていたのだろう。ここでもしっかり寝てしまった。やっぱり三味線の「1/f」のゆらぎが心地いい。
昼の部の最後は「蜘蛛絲梓絃」(くものいとあずさのゆみはり)である。これは江戸歌舞伎で荒事そうろう。派手でいい。片岡愛之助が次から次へと五変化を勤め、大団円は愛之助蜘蛛が絲を吐きまくり客席まで飛んでいった。大騒ぎの中、幕が締まって、あ〜おもしろかった。
先週末の文楽に始まって、土曜日の読書会&お座敷、歌舞伎(夜の部)、浄瑠璃、落語、そしてまた歌舞伎(昼の部)と、ハードな伝統文化週間は終わった。先週、体調を崩したこともあって一番最初に予定していた文楽の「曽根崎心中」に行けなかった。それが返す返すも残念である。
文楽に一緒に行く予定だった友だちには、ちょっと怒られているし……。だから昨日も飲みにいけなかった(残念)。
ということで、来週もめげずに頑張ろうっと。