記念日

 先週、友人がワシャの職場を訪なってくれた。それじゃぁ昼飯でも一緒に食おう、ということになった。駅前まで出て、いつもの鰻屋でうな丼の「竹」をいただく。
 相変わらずウナギは美味いねぇ。どこぞの独裁国家が乱獲をするから、値段が上がっちまったが、それはそれとして、ハレの日の食材感がもどってきたので良しとしよう。

 ワシャは時代小説、歴史小説をこよなく愛するものである。
 なかでも池波正太郎の文章は大好物。最近も『おとこの秘図』(新潮文庫)全3巻を読み、今は『侠客』(同)を寝ずに読んでいる(笑)。『侠客』は今まで手に取らなかったのだが、読み始めてみれば、「お若(わけ)えのお待ちなせえやし」の科白で有名な歌舞伎の「極付幡随長兵衛」の主人公、幡随長兵衛と水野十郎左衛門だった。この二人を軸にして、大悪人として登場するのが、唐津十二万石の領主の寺沢兵庫頭(ひょうごのかみ)で、こいつが狂気の殿様なんですね(笑)。こいつぁ春からおもしれぇわいってことで、今はまってます。

 さあて、噺があちこちに飛ぶけれども、池波さんは食通でも有名だった。エッセー集の『食卓の情景』(新潮文庫)の中にも「鰻」と題する文章が収められているし、『男の作法』(サンマーク出版)にも「うなぎ」という項が立っている。もちろん小説のほうにもちょくちょく「うなぎ」は登場し、『食卓の情景』で語られた池波さん自身の体験は、そのまま『鬼平犯科帳』の題材になっている。さらにそれを発展させて、『あほうがらす』という短編にまで仕上げてしまった。昭和の時代に見聞きしたエピソードを、江戸を舞台にして少しエロティックな話に仕上げる力量は「さすが池波正太郎!」と声を掛けずにはいられない。

 池波さんが鬼籍に入って25年が過ぎた。今日はその命日である。