名作

 手塚治虫の『鉄腕アトム』の中でも傑作と言われている「地上最大のロボット」を原作としてリメイクしたのが浦沢直樹の『プルートウ』である。手塚版の物語を登場人物、シチュエーションなどをまったく変えずにみごとな人間(ロボット)ドラマに仕上げている。

 手塚版は、ロボット同士の争いの後、アトムにこう言わせている。
「ねえ博士 どうしてロボット同士 うらみもないのに戦うんでしょう?」
それに対してお茶の水博士はこう答える。
「さあね わしにはよくわからんが 人間がそうしむけるのかもしれんな」
 そういうことだと思う。
 アトムは破壊された7体のロボット――もちろんプルートウも入っている――を想い出しながらこう言う。
「ぼく…今に きっとロボット同士仲よくして 喧嘩なんかしないような時代になると思いますよ きっと……」

 手塚さんが亡くなった翌年に出版された『ガラスの地球を救え』(光文社)、これは、テレビや雑誌での発言・講演録などから編集されたものなんだけど、その中にこんな言葉を残している。
《ひょっとすると、今の人類は、進化の方法を間違えてしまったのではないか、もとのままの“下等”な動物でいたほうが、もっと楽に生きられ、楽に死ねたかもしれない。》
 このあたりは『火の鳥』の「未来編」にナメクジの文明として描かれている。同じナメクジ同士なのに、北方種と南方種が対立し、戦争を始め、最終的に大量破壊兵器を使い絶滅をする。地上に最後の一匹として残った知的生命体のナメクジは神に懇願する。
「わたしゃそんな下等生物じゃない!!死ぬのがこわいんだ 助けてくれよ」
 まさに今人類という種が置かれている状況を手塚さんは予告している。バカなナメクジがうようよと蠢き出してこないように祈るばかりだ。

 話が逸れた。元に戻す。
 手塚アトムは、「喧嘩しないような時代」を祈って終わる。

 浦沢アトムは、冒頭に言ったように、きっちりと手塚版をなぞりながらも、全体的に大人向けの仕上がりになっている。「喧嘩しないような時代」も「憎しみがなくなる日」に言い替えられ、全8巻も「憎しみをどう浄化していくか」に貫かれている。まったく物語を変えず、登場人物を換えずにである。

 ううむ、名作を久しぶりに読んだわい。これを読むと「憎悪」に満ちたプルートウのようなワシャも少しだけエプシロンやノース2号のような心境になるから不思議だ。
 エプシロンやノース2号を知らない人は、浦沢直樹プルートウ』(小学館)を読んでね。