プルートウ

 手塚治虫の『鉄腕アトム』にプルートウという悪のロボットが出てくる。悪い奴なのだけれど強い。世界最強のロボットたちを次々に破壊していく。
 ネットで検索しても浦沢直樹版のプルートウは出てくるのだけれど、手塚治虫版が出てこない。浦沢版は全体に死神、悪魔をイメージさせる不気味な黒体のロボットになっている。手塚版は最強だけれども武骨で、アトムの妹のウランに好意を寄せる、悲しみを背負っているがどこか憎めないキャラになっている。例えば黒沢映画の『用心棒』に出てくる三船敏郎のような感じかなぁ。

 プルートウを最初に知ったのは、幼稚園に通っている時である。それこそ半世紀以上前だ。幼稚園の同じ組に、一人っ子の友達がいて、そいつは漫画雑誌やおもちゃをふんだんに買い与えられていた。ワシャは貧乏教師の倅で妹もいたから、なかなかそいつほど自由には漫画など買ってもらえない。だから幼稚園の近くにあったそいつの家に上がりこんで、そいつの本箱から漫画を引っ張り出しては、読んでいたものだ。その時は「鉄腕アトム」「鉄人28号」が全盛の頃で、でもワシャは「鉄人28号」のほうが好きだった。もちろん比較の話で、それほど子供の娯楽があった時代ではないので「鉄腕アトム」もおもしろくて貪るように読んだものである。
 その中でも「地上最大のロボット」は印象に残った。世界に最強のロボットが7体あって、それを悪のロボットのプルートウが1体ずつ倒していくという話。その最強7体の中に日本のアトムも入っている。

 最後のシーンは泣けましたぞ。
 アトムとプルートウの対決の場に、世界最悪最強のグロテスクなロボットのボラーが介入してくる。その最中に火山が爆発しそうになる。アトムはプルートウの戦いを中断し、火山噴火を阻止するために全力を費やす。それを見ていたプルートウもアトムを手伝う。二人はなんとか噴火を食い止めた。火口の縁で心配そうに見守っていたお茶の水博士にアトムが飛び寄って
アトム「博士ーっピンチをのがれましたよーっ」
 アトム、今度はプルートウのところに飛び寄って
アトム「プルートウ 万歳!」
 アトムとプルートウ、手を取り合って(ロボットのサイズが違うので、アトムがプルートウの指をつかんでいる)
プルートウ「ア アトム おれは生まれてはじめてこんなことをした……」
アトム「いいんだよ それでいいんだよ プルートウ
 アトム、プルートウの手を引っぱって
アトム「さあ 上へあがって勝負を続けよう」
プルートウ「(目をとして)いやだ アトム おまえとは もう絶対決闘をしたくない おまえは立派なロボットだ おまえと戦うなんて おれの恥だ」
アトム「プルートウ……」
 そしてプルートウは怪物のボラーと闘うつもりなのだ。
プルートウ「アトム……ウランによろしくいってくれ」

 この後の戦いでプルートウはボラーに破壊されてしまう。仇はアトムが取る。空しい結末ではあるが、闘うとは、命とは、人のために働くとはなどを高らかに歌い上げた名作になっている。

 呉先生の講義で手塚治虫の『罪と罰』が出てきて、そこから『プルートウ』にいってしまいました。浦沢版も再読を始めました。