湯船にて

 大相撲がおもしろい。やっぱり礼節を重んじる横綱が登場するとこれほど土俵がしまるものなのか……とあらためて感じている。稀勢の里、高安が全勝で突っ走る。遠藤もそこそこ頑張っている。ワシャの贔屓は、南信州出身の御岳海。小結の位置で4勝5敗と健闘している。
 テレビ桟敷で楽しんだ後、風呂に入った。入浴剤は常時8種類そろえてある。昨日は「バスクリン」の「咲け!咲け!さくら満開の香り」にした。弥生らしいのう。それからワシャの家の風呂には、透明のA4版のプラスチックケースが備えつけてある。中にタオルが敷いてあって、そこに本を入れる。単行本2冊と新書2冊程度なら楽々納まる。湯船の横に棚があって、そこにケースを置いて、さらにその横に乾いたタオルを準備する。まずくつろげる空間をつくっている。そこで桜の湯に浸かりながら手を拭き拭きしつつ落語系の本を読んでいた。
 ふと湯船を見ると、湯の中をなにかが漂っている。2センチばかりの紙片である。「なんじゃ?」と思って捕まえようとするのだが、ふわふわしてなかなかつかめない。よくみればワシャが読書の時に使う付箋(ポストイットスリムミニ)が1枚湯船に落ちたんですね。これが水流にのって回転したり、平行移動したり、微妙に動き回るのである。色は黄色の付箋なのだけれど、暖色系の照明、桜色の湯、あるいは波紋のせいでよく見えない。ときどき見失ってしまったりする。これがおもしろい。つい読書を忘れて付箋と遊んでいたのだった。

 風呂で読んでいたのは『ザ・前座修行』(NHK出版生活人新書)である。この本は、柳家小三治三遊亭円丈林家正蔵春風亭昇太立川志らくの前座時代のインタビュー集だった。その中で円丈が師匠の圓生のことを語っている。「圓生は厳しかったが、その場で怒っても、少しもあとを引かない」だから円丈はのびのびと修行することができ、現在、新作の雄と言われるまでになっている。指導者、リーダーは怒ってもいいけれど、あとを引いてはいけない。なるほど。