権情栗教譚

 タイトルは「ごんなさけくりがおしえるものがたり」と読む。新美南吉の名作童話「ごんぎつね」の新作浄瑠璃である。創って発表してくれたのは竹本連中の野澤松也師匠。太棹を自在に操る浄瑠璃の名手であり、重要無形文化財総合指定保持者でもある。
 松也師匠によるこの浄瑠璃の初披露が昨日、安城市の料理屋の2階であった。会場の関係で30人限定だったが、浄瑠璃を聴いて、料理を堪能した3時間は有意義な時間となった。
 演目は二つ。まずは古典中の古典「曽根崎心中」からクライマックスの「天神森の段」これをたっぷりと語ってもらった。ううむ、「曽根崎心中」はいつ聴いてもいいなぁ。文楽だと、太夫が語り三味線方が弾く。それを師匠は一人でこなす。見事だ。「権情栗教譚」にいたっては新作である。師匠も演奏後のお話で「まだ直すところがいろいろある」と言っておられた。しかし、南吉童話がそもそも浄瑠璃で語られるというのは初めてだろうし、ごんと兵十(ひょうじゅう)が三味線の音にのって追いかけっこをするのも斬新だ。ワシャは「狐忠信」の向こうをはって、ごんぎつねに扮した猿之助彼岸花を背景に走り回るのもいいような気がした。最期のシーンはごんの宙乗りでいい。舞台で見送る兵十を振り返り振り返り三味線にのって引っ込んでいく。
 まだまだ発展形がありそうな創作浄瑠璃であった。あ〜美味しかった。