圓丈という才能

 昨日、落語会にゆく。出演は、三遊亭圓丈、その弟子の究斗(きゅうと)、ふう丈。順番はふう丈、究斗、仲入りがあって、色物、トリの圓丈と並ぶ。
 午後6時30分、席亭の入りは7割ほどか。これが徐々に増えて、トリの頃には満席になる。
 まずは前座のふう丈が「初天神」でご機嫌をうかがう。次に究斗かと思ったら、なんと圓丈が高座に上がるという。ネタの時間の関係だろうか。あるいはテレビ局が入っているので、その撮影の影響なのかもしれない。でも圓丈が二席やることになったことはラッキーだった。
 最初の圓丈の演目は「強情灸」。え、古典やるの?いやぁ圓丈の古典落語は久しぶりだ。いつもの名古屋弁は封印し、江戸っ子の圓丈が高座狭しと暴れまくる。昨日(当日)が70歳の誕生日なのだそうだが、圓丈、とても元気だ。
 と言いながらも、以前(十年くらい前だった)に見たときより当然のことながら老いている。しかし、それがいい感じなのである。突き出ていた部分が適度に磨耗し、当たりが気持ちよくなっている。いつもの圓丈節には違いないのだが、それがじつにこなれている。以前に聴いたときよりもずっと聴きやすいし上手くなっている。
 仲入り前のトリは究斗。究斗はなかなか異色の経歴を持つ。劇団四季の劇団員として演劇の勉強をしている。その後、春風亭小朝に入門したが3年後に圓丈門下に移籍し、今年の3月に真打昇進を果たす。
 風貌はつるりとはげて、固太りに太っている。ミュージカルで鍛えただけあって声もいい。芸は、桂枝雀あたりに影響されているようだ。50を超えてからの真打だからかなり後発組と言えるが、芸の下地になるものは持っている。年齢を重ねていけばおもしろい噺家になるのではないか。
 仲入り後、色物が挟まる。ピアニカ・リコーダーを使うパフォーマンスだった。でも、やはり落語会には江戸情緒が感じられないとねぇ。前回の梅吉師匠が良かっただけに……。
 そして大トリの圓丈の登場。新作落語の雄らしくここでは、得意の「タクシーネタ」でご機嫌をうかがう。圓丈はタクシーの話が多く、落語に「タクシー物」というジャンルを築き上げたと言ってもいいだろう。
 夕べの噺は、畳の上で死にたいと病院の集中治療室から抜け出してタクシーに乗ったおじさんが死ぬまでの物語である。これってめちゃめちゃ暗い噺になりそうなのだが、圓丈の手にかかると大爆笑のネタになる。
 とにかくむちゃくちゃな展開で、そんなことがあるわけがないと思いつつ、噺にぐいぐいと引き込まれていく。
 圓丈、健在なり。
 圓生一門のお家騒動では、兄弟子の先代圓楽と対立をした。しかし、落語家としても弟子育てに関しても圓丈に軍配が挙がるのではないか。