官僚の行方

 最近、元官僚の書いた本を読んだ。読み終わって感銘を受けていたら、このニュースである。
文科省があっせんか 元幹部、早大へ再就職》
http://mainichi.jp/articles/20170118/k00/00e/040/271000c
《<天下りあっせん問題>文科省、三十数件を調査》
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170120-00000006-mai-soc
文部科学省が元高等教育局長(61)の早稲田大への天下りをあっせんした疑いが浮上した問題で、文科省はあっせんがあったとされる当時の山中伸一事務次官(62)=既に退職=にも給料の自主返納を求めることを決めた。一方、問題の調査にあたった政府の再就職等監視委員会が、元局長のケース以外にさらに調査が必要な事案が三十数件あるとみていることも判明した。》
 監督官庁と再就職先が癒着する温床になるので、国家公務員法では、官僚の天下りを規制しているんですね。
 政府が全府省庁の実態調査を行うらしい。官邸幹部は「全省庁の問題ではないという根拠を示さないといけない」と言っているのだけれど、官僚だって生活もある。問題は根が深いと思う。
そこで冒頭に触れた元官僚の書いた本である。これね。
http://book.jiji.com/books/publish/p/v/905
 元自治省キャリアの山田朝夫さんの著作『流しの公務員の冒険』(時事通信社)である。この人、東京大学法学部を卒業し総務省に入った。バリバリのキャリア官僚ですな。ワシャは多くのキャリア官僚に接してきた。例えば仕事で。あるいはスキルアップの研修会で。実は山田朝夫さんのことも知っている。ずらりとキャリア官僚を並べてみると、山田朝夫さんの突出ぶりというか、変異性はただならぬものがある。
 山田さん、総務省に入ってすぐに鹿児島県に出向する。その後、本省にもどり3年4か月を勤務し、再び大分県に出向する。ここで山田さん、開眼をする。著書から引く。
《大きな制度をつくる国の仕事は大事だとは思いますが、自分のやったことの手応えがリアルに感じられる仕事のほうに興味が向きました。》
 この人、多くの官僚のように、中央での出世、天下ってなに不自由のない余生を……なんてことは考えなかった。ただ生きるのではなく、いかによく生きるか。人のためになる仕事をするかということに主眼が置かれている。そもそも保身に汲々とする官僚組織とはタマが違う。
 霞が関にいる官僚はとても頭がいい。東京大学法学部卒業のエリートからみれば、ワシャなんかの脳味噌の出来はニワトリとそれほど変わるまい。でもね、百田尚樹の『幻庵』にこうある。
《碁の技というものは、一度身に付ければ、もう失わぬというものではない。高手の芸となれば、少しでも精進を怠れば後退する。》
 ということなのだ。あこがれの官僚になって、退職後の天下り先のことばかり考えていたら成長しない。むしろ退化する。おそらく今回天下った皆さんは、レールに乗った人生に安住してしまった。文部科学省の役人から早稲田大学の教授に転身した人は、超安定していたんでしょうね。
 だが、世界は霞が関周辺だけではない。むろん東京ばかりが人生ではあるまい。山田さんが書かれたように、おもしろいことは現場で起きる。そこに芯から優秀な人たちが出向して、腰掛けではない仕事をしてくれれば、地方はどれほど輝きを増すことだろう。山田さんが100人いるだけで、この国は変わる。ぜひ、この本を読んだ官僚の皆さんには、「オレも地域で名を挙げてやる」という気概を持ってほしいものだ。