テレビよりも歌舞伎

 今朝の「天声人語」は歌舞伎の話だった。
http://www.asahi.com/articles/DA3S12738674.html?ref=tenseijingo_backnumber
 相変わらずのチラ見せ商売は続いている。まるで歌舞伎座のチラシを見るようなコラムは相変わらずひどいねぇ。
《晴れ着姿の観客ではなやぐ新春の東京・歌舞伎座で、松本幸四郎さん(74)の「井伊大老」を見た。桜田門外の変の前夜、暗殺される運命を予感する大老が最愛のお静の方と昔をなつかしむ。歴史上の大人物に血を通わせた重厚な演技にひたった》
 一段落目は「晴れ着姿」「新春」と並べた平凡な冒頭で始まる。続く文章は、まさにチラシから拾える。二段落目も「親子孫三代襲名」の話題で、これも情報としては目新しいものではない。「初春大歌舞伎」とくれば、井戸端の話でもこう展開する……程度のもの。もうここまでで240字、4割のマス目を費やしている。
 三段落目は多少調べた痕跡が見える。現幸四郎の父である初代白鸚の言葉「襲名とは単に名前を継ぐことではない。名とは命(めい)、命(いのち)のことだ」を引いたり、「ラ・マンチャの男」の舞台の折のエピソードなど。
 で、最後は息子の染五郎が同じ歌舞伎座に出ている話になって《来年からは新しい幸四郎だ。先人に続く険しい道に、どんな足跡を残すのだろう。》でチャンチャン。
 せっかく、歌舞伎座まで行って(と言っても朝日新聞本社からは目と鼻の先)、取材という名の観劇を楽しんできたのだから、もう少しワクワクするようなコラムを読ませろよ。
 駄コラムはどうでもいいけれど、歌舞伎座に行きてー!

 芸能ネタでもうひとつ。夕べのNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」である。これもひどかった。元々の題材の選択が悪いのと、男女機会均等法ってやつですか、あれで隔年で主人公を男、女にしなければいけないというNHKの内規でもあるんでやんスかねぇ。
 まず、題材の選択である。時代はほぼ「真田丸」と重なる。だから映像に出てくる風景は同じで、新鮮味がない。それも、「真田丸」の舞台が信州上田、「おんな城主」が遠江井伊谷で、圏域としては隣同士になる。これで新鮮味が出るわけがなかろう。
 次に、歴史で大きく盛り上がるのは争乱期である。大河ドラマでも戦国や幕末維新などが定番となっているのはご案内のとおり。そもそもそう言った時期は史実としておもしろいことが散りばめられているので、ドラマとして見せ場が随所にできる。労せずして視聴者に楽しんでもらえる。
 ところが争乱期、要するに戦争の時期というのは、どうしても男の歴史にならざるをえない。それは男女差別ではなく、太古から出来上がっている役割分担なのだから、NHKがどうこうしようとしてもどうしようもない。そこに妙な男女平等感を入れようとするから悲劇が生じる。視聴率を稼げないNHKも悲劇だが、そんなものを見せられる視聴者も悲劇なのだ。
 井伊直虎って知っていました?
 徳川期の公式記録である『寛政重修諸家譜』井伊家の項は27ページにわたっている。その中でも井伊直政(家康の四天王)は6ページに及ぶ。その中にあって直虎(柴咲コウの役)について書かれているのは「女子 直親に婚を約すといへども、直満(直親の父)害せられ直親信濃にはしり、数年にしてかへらざりしかば、尼となり、次郎法師と号す」という4行のみである。直政の記載が404行であることを考えると、その時代に与える影響というものが隔絶していることは理解していただけよう。それもたかがと言っては語弊があるかもしれないが、でも言っちゃうけど、たかが井伊直政ですよね。戦国期で言うならば、信長、秀吉、家康はスーパースター。信玄、謙信、道三なども大看板である。真田昌幸(草刈さんのやった役)にしても、家康を相手に二度も勝っているので準主役級としては上位だし、その息子幸村も大坂の陣という戦国締めくくりの大合戦で一方の司令官を務めているので、戦国スターに名前を連ねているのである。
 直政はA級には入れない。しかし徳川四天王の一角であるし、幼少期からの辛苦の人生を眺めれば、たしかに一年くらいの大河ドラマには耐えられそうである。でも、その先代の地頭だった人(男だったか女だったかなど関係なく)、それほど地味な人物が一年のドラマを引っぱっていく魅力があるとはとうてい思えぬ。要は「家政婦は見ていた」ということで、歴史的な事歴に対して井伊直虎がそこにいたとか、その決断に関与していたという話に持っていくのだろう。井伊直政は家康の家臣として主だった合戦には顔を出している。井伊の赤備としても勇名をはせる。そのあたりも直虎がいろいろと助言をしていたということになるんでやんスね。
 ネットニュースでは好意的だった(苦笑)。
大河ドラマおんな城主 直虎』第1回放送!子役の演技が好評》
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170109-00047502-crankinn-ent
 ワシャはひねくれ者なので、この子役の演技がまったく入ってこなかった。臭すぎるのだ。常に明るく元気で楽しそうな笑顔もダメだったし、まつ毛をつけているのかなぁ、ヘアスタイルも衣装もあざと過ぎて、見ているのが苦痛だった。これはこの子役のせいではなく、演出をした大人たちの出来の悪さ、脚本のまずさなのである。時は戦国、もう少し画面から時代の危機感というようなものが伝わってくるといいのだが……。事前の番組宣伝で床板などのこだわりを強調していたが、そんなものは二の次なのだ。まず物語がおもしろいかどうか、その部分をNHK大河ドラマは忘れてしまっている。

 冒頭の駄コラムの話である。歌舞伎座幸四郎が「井伊大老」をやっているんでしょ。だったら、NHK大河が夕べから始まったんだもの、うまくくっつければもう少しまともなコラムになったのに。残念。