兜改め

 日にちが一日ずれた。
 建武2年(1335)の12月11日のことである。足利尊氏、直義軍が箱根で新田義貞軍を破った。

 夕べ、某所で歌舞伎の集いがあった。そこでの話題はもっぱら歌舞伎座の12月の演目についてである。
 当月は「仮名手本忠臣蔵」の通し狂言。出演は玉三郎幸四郎海老蔵菊之助染五郎獅童など。う〜ん、勘三郎団十郎猿之助などを欠いているので、少しさみしい顔ぶれだなぁ。玉三郎がいなければ、杮葺落にならないだろう。
 その「忠臣蔵」の大序(一段目)が「兜改め」である。登場人物は、足利直義、直義の家来の高師直(こうのもろのう)、塩治判官(えんやはんがん)、顔世御前(かおよごぜん)、そして新田義貞の兜が重要な小道具として出てくる。

 いわゆる「赤穂事件」の敵役の吉良上野介が師直、浅野内匠頭が判官で、今回「大序」では師直を海老蔵が演じる。これはけっこう奇抜な抜擢だ。あの色男の海老蔵が憎々しげな師直をどうこなしていくのか、これは楽しみだ。
 かつて二代目実川延若が師直を演じ、言い寄られる顔世御前を歌右衛門がつとめたことがあった。この時の延若の師直の色っぽかったことはつとに有名だ。延若師直を袖にするはずの歌右衛門
「その師直の結構なことと言ったらね、ちょっとありませんでしたよ、その色気。内から外へジワリとにじみ出てくるような男の色気。これじゃあ顔世も困っちゃうだろうし、困っちゃっただろうし……」
 と言っている。
 さあて、海老蔵師直はいかがあいなりますことか。