歴史の捏造(笑)

「心を小にし、夙夜忠誠を励み、人に接するに敬を篤くし、士を愛して寸功も忘れず」
 江戸期に編纂された『井伊家譜』の藩祖、井伊直政の記述である。のちに徳川三傑のひとりに数えられる知勇兼備の武将であった。「井伊の赤備え」って聞いたことがありませんか。戦国の軍団の中でも屈指の強兵で、家康の先陣には必ずこの「赤備え」が陣取っていた。関ヶ原の合戦で獅子奮迅の活躍をすることは史書に詳しい。
 それはいい。それよりもこの話である。
柴咲コウ大河初主演「驚いています」》
http://www.daily.co.jp/newsflash/gossip/2015/08/25/0008335892.shtml
 2017年のNHK大河ドラマが女優・柴咲コウ(34)主演の「おんな城主 直虎」に決まったそうな。今年が、吉田松陰の妹で女性が主人公、来年が真田幸村でもちろん男性。NHKは男女共同参画好き(笑)で「男」「女」「男」「女」……と1年ごとに主人公の性別を替えていく。そもそも大河ドラマというものは1年もつ物語があって初めて成立する。だから、戦国時代とか幕末・維新とか事件、乱、合戦などが多い時代背景になる。そういった争いの時代というものは、どうしても男の時代にならざるを得ないのである。
 それをNHKが男女平等をかかげるから「家政婦は見た」系の脇から眺めた乱世ドラマになり、視聴率が上がらない。
 2017年の主人公は、井伊直虎という女性である。これは実在上の人物で、『寛政重修諸家譜』の井伊家の欄にも「女子」として記載されている。事歴は「直親に婚を約すといへども、直満害せられ直親信濃国にはしり、数年してかえらざりしかば、尼となり、次郎法師と号す」これだけである。
 これでは1年のドラマはもつまい。実際、井伊谷の没落地頭の跡取り娘でしかないわけで、その養子が冒頭の井伊直政であることから、彼の事歴(同書で17文字×400行)に頼るしかない。だから「伯母ぎみは見た」というかたちで物語を創っていくのだろう。今川義元や信玄、信長、秀吉、家康などの大物たちが登場し、彼らに伯母ぎみがいろいろと物申していくんでしょうね。そして戦国時代はこの遠州井伊谷の女城主が動かしていたのだった〜〜めでたしめでたし!という、ウソの歴史がまた広まっていく(泣)。