ちょっとだけうれしい

 昨夜、友だちと某駅前の居酒屋に顔を出す。いつもなら6時には開店している店なのだが、暖簾が出ていない。店内も暗いのである。「臨時休業か?」とも思ったけれど、入口にダンボールの紙片が掛けてあって「本日は7時から営業します」と書いてある。ありゃりゃりゃ、この店は美味い牡蠣を食わせるので足しげく通っているのだが、まだ午後6時を少し回ったところだった。さすがに雨の中、小一時間も待てない。寒いしね。ちょっと歩けばチェーン店の寿司屋もある。そっちにしようかな、と思いはじめたとき、女の店員さんがカラス戸から覗いているワシャに気が付いて、ネジ式のカギを開けくれた。
「今日さぁ、大宴会が入ってその準備でてんてこ舞いなのよ。だからいつもより開店が遅いのよ。でもあんたたちならいいよ。カウンターでいいよね」
 と言って暗い店内に入れてくれた。いやー常連でよかった。カウンターでセルガキと金目鯛の刺身で一杯やっていると、ネタケースごしに一段落ついた大将が声を掛けてきた。
「今日の金目はいい金目だよ。箱入りの金目だからねぇ。いつもと同じ金額では採算が合わないんだけどね」
 と、今年の漢字の「金」を連発して嬉しそうに自慢する。確かに歯ごたえがあって甘い刺身は、熱燗がすすむのだった。里いもとシイタケを煮た小鍋も美味しかった。冬が深まってきたなぁ……。