街角にて

 昨日、ちょいとした所用を終え某駅まで戻ったのが午後5時半だった。わりとバタバタしていたので昼食をとれなかった。てなわけで、友人と某駅前で軽く食事をしてくことになった。

 でもね、駅前の飲食店はことごとく閉店している。辛うじて開いていたのはチェーン店の居酒屋だけだった。とはいえここも時短営業の張り紙がしてある。どこの店も大変なんだ。この店、全面がガラス戸なので中の様子が見える。何組かのお客がいたけれど、それほど混んでいない。ソーシャルディスタンスを確保できそうなので入ることにした。

 入店して、他の客からもっとも離れた奥座敷の隅の席をとって、とにかく食べる物を何品か注文した。生ビールを飲みながら料理を待っていたら、これがあなた、次から次へと客が入ってくるではあ~りませんか。ちょうど名古屋方面からの電車が入って来たんでしょうね。そこからどっと人が降りてきて、駅頭で居酒屋を探すんだけど、ことごとく閉まっている。この店くらいしかないから「仕方がないここに入ろう」ということになったんでしょう。ワシャらもまったくそのパターンですからね。

 ビールが出てから、料理が並ぶまでのわずかな時間で居酒屋は満席になった。ソーシャルディスタンスは取れない。それにフェイスガードなどで飛沫防止をしているのはワシャらだけ。その上に小声でひそひそ話をしているのもワシャらだけだった。あとは、マスクもせずに大声で話をしている。ワシャらのテーブルから2つほど離れた席に女性2人の客がいたけれど、キャッキャキャッキャと大騒ぎをしている。換気はしているのだろうが、これはかなり厳しい空間だと判断した。

 ワシャらはビールを飲むのもそこそこにして、出てきた料理をガツガツと食って、さっさと店を出たのであった。

 たまたま入った居酒屋で分かったことが2つある。

 ひとつは、時短営業をしてもまったく効果がないこと。むしろそのことで客がある時間帯に集中して混雑を引き起こすこと。さらに時短営業をするくらいなら店を閉めたほうがいいと判断する店舗が多く(少なくとも某駅前はそうだった)、このために開店している店に客が集中し、混雑を招いている。上の考える政策がまったく裏目に出ているのだ。

 ふたつめは一般人の危機意識が薄いことである。まだ愛知県は「非常事態宣言」が発令中ですよね。それが、この大騒ぎの店内を見ると、まったく別の国のことのように思える。はっきり言って、満席の店内で感染防止をしていたのは、ワシャら2人だけだった。アベックの女性が最初はマスクをしていたが、酒が入ってくるといちいちマスクを着脱するのが面倒になったらしく、外しっぱなしになっていた。この危機感のなさはいかばかりであろうか。

 

 店から出てくると、ケータイに着信があったことに気がついた。以前に事務所を借りていた時の関係者からの電話である。掛け直してみると「事務所の固定電話に――ワルシャワさんのケータイ番号が知りたい――という連絡があった。知り合いのようだったのでケータイを教えた」とのことだった。

 教えた相手の名前を確認すると、ああ、ワシャが凸凹商事にいる頃に、臨時社員として働いてくれていた若者ではないかい。関係者が彼の電話番号を聞いておいてくれたので、そこにかけてみた。

 そうしたらね、結婚の報告でした。

「今日入籍しました。そのことをワルシャワさんにお知らせしたくって」

 いやあ、嬉しいではないですか。その若者、3年ほどワシャの下で働いてくれたんだけど、最初はね、凸凹商事の入社試験に落ちて、次の年にまた受験するというので、その間のつなぎとして臨時社員として働きたいということだった。次の年にも落っこちて、さらに次の年にも落っこちた。さすがに3回落ちると厳しい。本人もかなり落ち込んでいたようだが、ワシャの部門の明るさが気に入ってくれて、それで凸凹商事に入社したいと思った、と後に聞いた。

 4回目で見事に合格した。いやはや~ホッとしたものだった。そして結婚までとは。よかったよかった。街角でちょっとほろりとさせられた。