応援

 数日前のことである。会社のOBの方から久しぶりに事務所に電話があった。ワシャが入社したころに部長職をはっていた方だから、80歳は超えておられる。10年ぶりくらいに声を聞いたかなぁ。
 電話の内容は少し無理筋の情報提供の依頼だった。おそらくその方が現役の頃には、会社も大らかだったので、そういった依頼についても、部外者に気軽に出していたに違いない。しかし、これだけ情報統制の厳しい昨今では無理な話だった。
 それでも、飲み屋でもなんどかお世話になった先輩だったので、丁寧に話を聴いて、答えていいところはきちんと答えた。それではやはり納まらなかったようで、長々と説教された。
でもね、それがそれほど苦痛ではないんですよ。入社当時はいつも飲み屋で叱られていましたからね(笑)。なんだか懐かしくなってしまって。
 話は平行線のまま煮詰まってしまった。ついにOBはこう言い出した。
「きみは僕のことを信頼していないんだな」
 これは風を入れないとどうしようもない。そこでこう提案した。
「わかりました。それでは、〇〇さんもご存じでしょうが、一度、担当部局に話をしてきます。その結果はまたご連絡します」
「担当部局の部長は□□君だったね。確かあなたと同期だったな」
「はいそうです。彼に相談して、またお電話をさしあげます。それでいかがでしょう」
 その情報が出せないことは明白だった。しかし、落ち着いてもらうためには時間が必要だ。しかし担当部長の名前まで知っているとは意外だった。とにかく本社まで出かけることにした。どうせ行くのならついでに他の仕事も片づけておこうと、書類の束を抱えて自転車にまたがった。

 ワシャが支社にもどると、伝言メモが入っている。ワシャが出かけて20分くらいして、再度〇〇さんから電話が入っていた。折り返そうとしていた矢先に、三度目の電話がかかってきた。
「不在にしておりまして申し訳ありません」
ワルシャワくん、□□のところへ行ってくれたんだね」
「ええ、なにか手はないかと思って相談に行ったんですが、やっぱりその情報は出せないのでご勘弁ください」
「そんなことはもういい。それよりもあんたに詰まらない話で□□に頭を下げさせたのかと思うと心苦しくなってきてね」
「いえいえ、全然そんなことはありません」
「下げんでもいいのに頭を下げさせて、申し訳なかった。それでもぼくの依頼にすぐに動いてくれたことがありがたかった」
「ちょうど本社に行く用事もありましたので(笑)」
「いいか、□□なんかに負けるんじゃないぞ。僕はきみを応援しているからな」
「ありがとうございます」
「また一杯飲もう」
「いいッスよ、でも大丈夫なんスか」
「う〜ん、もうずいぶん飲めなくなった。そうそう、そう言えばこの間OBの△△に会ったが、かなり弱っていたなぁ……」
 などと、OBの消息のような他愛のない話をされて、それでも楽しそうに受話器を置かれたので少しホッとした。
 応援されるとうれしいねェ。選手がメダルを狙う気持ちがよく理解できますな。