本の断片

 城山三郎さんが言っている。
「尊敬するに足る人を、一人でも二人でも多く持てるということ――それは、人生における何よりもの生きる力になることであろう」
 見つけたのは『静かに健やかに遠くまで』(海竜社)の中。

 宇野千代さんは元気だ。今朝の朝日新聞の広告欄に宇野千代さんが「美肌レジェンド」として掲載されていた。
「実際、傍から見てさも幸福そうに見えるとか、いかにも不倖せらしく見えるとかいうことは、本人にとってはそれほど意味のあることではない。傍からは不幸らしく見えることも案外幸福だったり、幸福だろうなアと思われることもそれほどでなかったりする」
 これは『幸福は幸福を呼ぶ』(集英社文庫)。
「私は幸福だか不幸だか、そんなことはちょっと言えない。不幸だとか幸福だとか言う言葉くらい、本人の気の持ち方次第のものはないからだ。自分が不幸が好きなときは不幸だし、幸福が好きなときは幸福だ。おかしな言い方であるが、不幸になるのも幸福になるのも、本人の望み次第で、私の好き勝手になれるのだと言う気がしている。その人の不幸なのは、神様が不公平であったり、他人が意地悪だったりするためではないようだ」
 こちらは『幸福を知る才能』(集英社文庫)にある。
 
 与謝野蕪村の話である。彼は壮年期以降、画業では池大雅と並び称されるほどの地位にあったし、俳諧では宗匠を継いで、富豪の門弟に招かれご馳走や遊興に忙しかった。そうした生活ならいいじゃんと思うのだが、容易に自分の世界をつくりあげることのできない境遇に納得していないのである。
「貧乏に追つかれけりけさの秋」
「壁隣りものごとつかす夜さむ哉」
「我を厭ふ隣家寒夜に鍋を鳴らす」
 この句は『蕪村俳句集』(岩波文庫)から。