西三河は満開

 桜はすでに散り初め、「吹雪か?」と思わせるほどの花弁が舞う。満開は桜の花のことではない。梨である。西三河では梨の花が満開に近づいている。ソメイヨシノよりさらに白く、遠くから眺めると雪が枝にのっているかのように見える。
 1300年も昔のこと。唐の玄宗皇帝の庭園に梨の花が咲き誇っていた。玄宗、多くの寵姫を引き連れて、花の下に遊んだ。おそらく楊貴妃もいたのではないか。そこで玄宗自身が舞楽を教えたと言われる。そこから「梨園」という言葉が生まれた。藤原紀香さんが入ろうとしている世界のルーツがそんなところにある。
 上村松園が第四回の帝展に出した「楊貴妃」という作品がある。ちょっと小さいけれど雰囲気はこんな感じです。
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/141227/
 入浴の後であろうか。乳房が露わになるのもかまわず、薄絹をまとって涼んでいる。髪を結い直しているところを見ると、これから玄宗皇帝の梨園での宴に向かうのかもしれない。
 
「甲斐がねに 雲こそかゝれ 梨の花」
 与謝蕪村の句である。「甲斐がね」とは、諸説があるけれども、絵面からいって富士山しかないと思う。蕪村は梨の花のもとに立って、雲のかかりつつある富士の高嶺を望んでいる。この時期である。富士には雪があり、雲も白い。梨の花の白さもあって、少しずつトーンの違う白が、青い空を地色にして際立っている。そんな風景だろうか。