鳥羽殿へ 五六騎いそぐ 野分哉
鳥羽殿というのは、京の南の地、鳥羽にあった上皇の離宮のことである。
場面は、洛南の原野に往還が細く続いているあたり。季節は秋、野分の強い風が吹き荒れている。そんな中、往還を地侍が五六騎、風に逆らって馬を走らせている。
与謝蕪村の一句である。蕪村は江戸中期の人で京に住んでいた。おそらく野分の日にもの好きにも洛南に出かけていったに違いない。そこで荒れ狂う風に翻弄される原野に立った。その時に、蕪村のイマジネーションは600年の昔に飛翔して、保元平治の頃に台頭する地侍の幻を見たのだろう。
なんでこんなことを書いているかというと、来月、年一回開催のスペシャル読書会があるのだが、その課題図書が、宮崎哲弥『仏教教理問答』(サンガ文庫)なんですね。そのからみで『正法眼蔵』などを再読したり、宗教関係の本を読み散らかしている。
その中に『仏教を生きるシリーズ』(中央公論新社)の第10巻があった。これが「道元の巻」で、冒頭の句を含めて、道元の生きた時代が活写されていたのだ。なにしろ『正法眼蔵』が難しいので、ちょいと脇道にそれたら、どんどんそっちに行ってしまっている。じつはそっちのほうが楽しかったりして。
あ、『正法眼蔵』すら脇だったか(笑)。