山里の春

 昨日、幸田町の駅前でちょっとした有志の寄合があった。話題の中小企業の社長を呼んで、最近の話を聴きながら花見酒である。これがおもしろい。
 その話に入る前に、少し幸田町のことに触れたい。JRの快速に乗ると、名古屋―金山―刈谷安城―岡崎、そして幸田なのだが、特別快速や新快速は通過する。あるいは普通でも岡崎停まりがけっこうあって、幸田まで届かない。尾張・西三河方面からほどほどに遠い場所なのである。運よく1時間に1本の幸田に停まる快速にあたれば運がいいのだった。
 昨日などは花曇りだったが、濃尾平野を走る電車から、都会に点在する桜を愛でるのも楽しかった。その広大な濃尾平野が岡崎で尽きる。その先が幸田である。幸田の駅頭に立つと、線路の両側に山が迫っている。その山のところどころに薄桃色の桜がパッチワークのように縫い付けてあるのだ。山里の秘境駅に降り立った気分が醸される。マンションの林立する岡崎から5分でこの風景である。とくに駅の西側は広い農地で、風景がそのまま里山につながっていく。こんな風景はJR沿線でここしかあるまい。工場だか、研究所の誘致話も出ているようだが、ここはそのまま手つかずにしておいて、「里山観光」とか「駅から5分でいける田舎」などにして取っておいたほうがいいような気がする。
 寄合の話である。幸田の駅前に20数人が集まった。幸田の駅前といっても居酒屋なんかではない。篤志の家の離れを想像してもらえばいい。それも、野中の一軒家といった風情である。参加者は、遠く岐阜、静岡からやってきた人もいた。地元の偉い人も参加して、けっこう充実した午後になった。とはいえ、会の趣旨として「酒を飲みながら」ということなので、ワシャは午後1時過ぎから缶ビールを飲んでいましたぞ。だから忌憚のない意見も飛び交うわけである。まあ潤滑油ということで(笑)。
 この会、勉強会として20年くらい続いているのだが、見回してみると、あらら、いつのまにか若い人が多いのね。ワシャなんか年齢で見ると上から3人目くらいで、ほとんどなにもしないで座っているばかりなりけり。いつのまにやら後進が育っていたのである。名刺交換をしても、肩書のない人が多く、そういった人たちのほうがかえって活発に情報交換をしていたり、ゲストに一所懸命に話しかけたりしている。座敷でそんな光景が展開しているのだが、その座敷の縁のすぐそこに幸田の山が迫っている。そこに見事な枝垂桜が咲いていた。春の山里に響く議論の渦、参加者の紅顔は若く羨ましい。時の流れを感じたけれど、少しもイヤではない。こうやって世代交代をしていくのか……。そんなことを思いながら、ワシャは指定席にどかりと座って、お燗番をしているくらいのことだった。
 里山に夕暮れが迫る頃、家主に挨拶をして席を辞した。門柱を出て、今から田打が行われる田んぼの畔を歩いていると、まもなく駅に着く。風が上がってきた。雨が近い。でもワシャには酔い覚ましの心地のいい風だった。