策を弄する

 夕べのNHK大河『真田丸』、やはり真田昌幸の存在感が大きい。草刈正雄という役者が演じていることもある。それに加えて、戦国時代を強かに生きた真田昌幸の爽快さがいい。これらに引きつけられる視聴者も多かろう。
 司馬遼太郎さんが『尻啖え孫市』の中でこう言っている。
《余談だが、小戦さの芸達者では、ふるくは南北朝時代の河内の地侍楠正成、藤吉郎と同時代では、信州の真田昌幸(幸村の父)などがいる。みな地侍のあがりである。先祖代々、自分の小さな地所をまもるために、近隣の地侍と小競りあいをくりかえし、その面の智恵は練りに練ってきている連中である。》
 司馬さんの昌幸への評価は高い。策謀家ではあるが、徳川家康を敵に回して堂々たる戦いをした。家康がどんなに権力を強化しようと「嫌いなものは嫌いなんじゃ」と家康に面従背反し、時には煮え湯を飲ませた小気味のいい武将であった。あの狸おやじと言われた家康が、自分と比べればさしたることもない小豪族に翻弄され続けたわけだ。
 来週が「決戦」である。真田と徳川がはじめて真っ向から激突する。真っ向勝負といっても横綱十両力士の相撲のようなもので、そもそも相撲にならない。しかし、昌幸は智謀のあらんかぎりを尽くして、徳川に城を造らせ、その城で徳川を撃破する、なんともまあ三河人にとっては悔しいかぎりの城だが、それにしても昌幸の構想力・企画力はいかばかりであろうか。
 今後、ドラマは昌幸と家康の対立が先鋭化していく。これに秀吉などがからんできて、これまたおもしろい展開になっていくだろう。

 横綱といえば(ちょっと強引ですが・笑)、昨日の千秋楽の一番が情けなかった。東西の横綱対決である。それも日馬富士白鵬に勝てば、白鵬稀勢の里の優勝決定戦となるだけに、会場どころか全国のテレビ桟敷で観客がかたずを呑んでいた。軍配が返った。仕切りに手をつく。両者、どーんとぶち当たった……当たらない。白鵬、左へ変化した。目標を失った日馬富士はそのままのめって土俵を割った。
 これが千秋楽の横綱決戦だった。なんのこっちゃ。白鵬の父親がモンゴル相撲で6回優勝しているんですと。1回の優勝が大相撲では6回にあたるんで、6×6=36回で、どうしても36回優勝したかったらしい。知るか、そんなもの。
 このアホ横綱は、勝つために手段を選ばない卑怯な男だ。小さなものが、あるは低位のものが、巨大な相手、強大な相手に策を弄するのはいい。しかし、大横綱がいくら相手が横綱とはいえ、変化を見せるなど、モンゴル人横綱以外で見たことがない。
 優勝インタビューの時に、泣いて詫びを入れていた。そういうことではないのだ。そんな醜態をさらすよりも、まず土俵で毅然とした相撲を取れということなのである。おそらくこのアホ横綱の中では、勝ち負けが最優先で、勝ち方負け方というのは二の次なのだろう。
 同じ支度部屋にもどった日馬富士とも目が合わせられなかったという。これが大相撲の記録を塗り替えている横綱として長く名を残していくのかと思うと情けない。大横綱であり名横綱だった大鵬より優勝回数は多い。そのことだけを後世に伝えるだけではいけない。卑怯な横綱として長く語り継いでいこう。
 小県の小領主ではないのだ。策を弄するな!