御礼参り

 与謝野蕪村に「夜色楼台図」という名作がある。小っこいのはここで見られるが、大きいのは探して見てください。
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/data/101225/
 横長の画面に冬の夜の山々を背景にした町家が展開する。静かな絵である。蕪村はどこにも京とは書いていない。余白に添えられた「夜色楼台雪萬家」は明の漢詩人の詩から採っている。しかし京の町なのである。しんしんと雪の降る夜景は京都以外のどこでもなかった。

 昨日、御礼参りで京都に出かけた。ヤクザのカチコミとはちゃいまっせ(笑)。昨年、神仏に願掛けをしたものがひとつ成就をみたので、京都好きの友だちと出かけたのである。3カ所、寺社をまわって、夕方、京都駅にもどった。腹も減ってきたし、一杯やりたくなった。ということで、JR伊勢丹の駅ビルにある湯葉の店に入る。ポン酢でいただく湯葉は美味いッス。ほどよく燗のついた黄桜は凍えた体を芯から温めてくれる。
 それにね、その店から京の町の眺望がいい。ちょうど東本願寺西本願寺が窓枠におさまり、その奥に五山がならぶ。このロケーションでは送り火の夜の予約はいっぱいだろう。
 午後5時過ぎに店に入った。その頃からだんだんに日が暮れていく。京都タワーに灯がともる。五山が夕闇にきえていく。名古屋あたりでも、高いビルからの夜景はきれいだ。さぞや京都は……と期待をしたのだが、京都の夜景は暗いんですね。ところどころ暗い闇がある。それが東本願寺西本願寺、その他の神社仏閣の域なのだろう。その控えめな夜景が「夜色楼台図」を思い出させた。
 甍の波が山の端まで続いていた昭和初期までの夜色はどれほど贅沢な俯瞰だったでしょうね。