前門の虎、後門の狼

 大きい仕事かと言えばそれほどのことはなかった。組織的に考えれば小さな仕事と言っていい。ミッドウエー海戦ではなく、マレー半島の山岳地帯での小部隊の戦闘程度のものである。具体的に言えないのがもどかしいが(笑)、たまたまワシャのもっているネットワークを使ってその小さな企画に関わりをもった。
 この企画に、ある致命的な障害が発生した。敵軍の不意打ちと言っていい。部下とともにいろいろな打開策を摸索した。しかし万策が尽きた。万策が尽きるということがあるんですね。
 ワシャのことを知っている人は知っているが、ワシャは、策が尽きても、あまり諦めのいいほうではない。何か手はないかと動き回るタイプである。いささか動き回り過ぎるきらいがあるとも言える。でもね、それで窮余の一策にたどりつくこともままあった。
 しかし、今回は厳しかった。例えるなら、歩兵部隊が敵軍に崖っぷちに追いつめられたと思っていただきたい。周囲を最新重火器で装備した精鋭部隊、それも5倍の敵兵に囲まれた。その上に「白旗をあげる」ことすら拒絶されている。進むもならず、引くもならず、待っても事態は悪化する。どうシミュレーションしても、どうパズルを組んでも、どうシナリオを書きなおしても、策がない。万策まさに尽きんとす……。それが二日前の状況だった。
明日は明日の風が吹く」「ケセラセラ、なるようになる」「明日がんばろう」
 そんな安直な思いに切り替えて、すんなりと眠れるわけがない!でも、少しうとうととしたら朝が来た。昨日の朝である。
 もちろん一夜が明けたからといって、状況は何も変わっていない。刻々と時間が過ぎていくだけ悪化している。
ワルシャワ部隊玉砕か!」
 昨日、部隊長は特攻を敢行した。神風である。その時、ホントの神風が吹いた。もちろん殺到する敵を雲散霧消させるところまではとうていできる話ではない。包囲網の一角に集中し、敵の陣形をわずかに崩した。そこから一点突破をはかって、少し息が吸えた、というところである。
 まだ油断はできない。今日も別件の大きな会議があるのだが、そこに出席をしつつ、次の展開を考えなければならない。なかなか忙しいわい。とほほ。