対決

 昨日の夕方、仕事を終えて帰宅する。ワシャの家は建物の東側に駐輪場がある。そこに流星号(ワシャの自転車ね)を停めていると、家の北側(裏)から大きな白いドラ猫がのそりと現われた。お互いに相手に気が付いて、はっと立ち止まった。しばしメンチの切り合い(睨み合い)となる。ドラ、ワシャから視線を外さず、ワシャから2mくらいの距離を保ちつつ、家の裏から駐輪場を抜けて東側の小道に出ていく。道に出たところで再び立ち止まり、ワシャのことをじっと見据えている。ワシャだって負けてはいませんぞ。ドラにメンタン(メンチをこうとも言う)を切ったまま、いつでも飛びかかれるように身構えている。ドラのほうも「グルルルル……」と喉を鳴らしながら、警戒しつつ小道を南へ去っていった。
 ドラを見送ってホッとした瞬間に、背後から視線を感じとった。ハッと振り返ると家の角からトラ模様の猫が覗いている。こいつも太っているぞ。トラはワシャがドラに気を取られている間に、ワシャの背後を通り抜けようとしたらしいが、そうは問屋が卸さない。ワシャの八方目(少林寺拳法の技ね)に察知されたのだった。ワシャとトラは睨み合ったまましばし動かない。膠着状態が続いた。ワシャは大相撲の稀勢の里戦が見たいので、こんなことをしている場合ではないのだ。仕方がないので「シャーッ!」と声を発し脅してみた。敵は姿勢を低くして「グルルル」と応じる。トラの上体が前後に揺れ始めた。少しずつだけれど揺れながら後ずさりしているようだ。
「シャー」
「グルル」
「シャー」
「グルル」
じりじりと下がっていったトラはワシャの視界から消えた。それでワシャも警戒態勢を解いたのだった。
 あいつらワシャの家の裏を遊び場にしている。時たま裏口に脱いだワシャの革靴の上で寝ている時もあって、靴がぺちゃんこになっていることがある。だからドラもトラも見つけたら睨んでやることにしている。そんなことをしていたら、稀勢の里戦を見逃してしまった。やれやれ。