水木さんついて

 評論家の呉智英さんに「水木しげるさん」のことを語ってほしいと思っていたら、早速、昨日のTBS系の「ひるおび!」に呉さんが出演されていた。録画して、夜になってから見直したぞ。
 席はコメンテーターの席の一番中央。そこで11月30日に亡くなられた水木しげるさんのことを語られた。
 司会者の恵氏が「今の気持ちは?」と問うと、呉さんは「いやぁさすがにショックではあるんですけれども、いよいよくるものがきたかという感じですね。なにせご高齢ですからね」と答える。恵氏が「水木さんはどういう方だったんですか?」の問いには、「マンガは非常におもしろい方、しかし本人はその10倍おもしろい」と応じる。この発言に対して、呉さんの横に座っていた元編集者の松田哲夫さんが「100倍じゃないですか?」と合いの手を入れると、呉さんは笑って「100倍かもしれないですね」と同意する。以下に、「ひるおび!」での呉さんの発言をまとめておく。
「妖怪をね、ああいうかたちで民間伝承の中から取り上げて、映像化したためにですね、日本の風土みたいなものが現われてきたのが人気の要因だと思うんです」
「水木さんは健啖家。自分の欲望に忠実で、食欲と睡眠欲は絶対に曲げなかったということですね。どんなに忙しい時も、必ず寝ていた。多くの漫画かは徹夜自慢をするものだが、水木さんは、月に一度くらいはやったかもしれないが、そういうことを言わなかった。きちんと10時、6時で仕事をするから、助かったのはアシスタントたち」
 恵氏が「水木さんの戦争体験」について尋ねる。
「他の戦争体験した方も同じようなことをおっしゃいますね。同じ戦地ですぐとなりの者が弾に当たって死んでいるんだけれども、自分は生きた。やはり運命のようなものを感じる。水木さんの作品の中にも、そういうシーンが何度も出てくるんですね」
「隻腕をなくしていながら戦後大変努力されて、マンガの線を引く時に定規を使うんですが、10センチくらい残っている左腕を使って器用に引く」
「さまざまな妖怪というのは、多くの人びとに愛される。ねずみ男は大人の喜ぶキャラクターですね。水木さんもねずみ男が一番好きだった」
「鬼太郎の原点である『墓場鬼太郎』の第一話は、人間に滅ぼされた幽霊一族の話。歴史の重層性、文明の重層性が語られている。ぜひ第一話を読んでいただきたい」
「山陰の鳥取で育っているんで、伝承の豊かさとかね、その伝承の中に『古事記』とか『日本書紀』に、前にあった王朝が滅ぼされていったというような、歴史の重層性が子供の頃から水木さんの頭の中にあった」
「最近、水木さんが海外で評価が上がっている。絵の独特の魅力というものは、もっと評価されていい」
 昨日の日記で触れた「幸福の七か条」に話が及ぶ。「第六条 なまけ者になりなさい。」について。
「自分はなまけものじゃないんですよね。ただし、自分の中でですね。食欲とか睡眠欲を守り通すということがあるという意味において、他人から見ればなまけものかもしれない。けれども実はそうではないというところがおもしろい」
「第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ。」について。
「水木さんはそういう人をたくさん見てきている。マンガの世界は苛烈な世界ですから、いくら努力しても芽が出ないまま都会の陋屋で死んでいった人がいるんですよね」
 松田さんが水木さんがお亡くなりになられたことを「巨大な水木ワールドの中で、ちょっと転居しただけ」と言われた。それを受けて呉さん曰く。
「代表作の『河童の三平』は死後の世界と現世が地続きになっている。あれもいい作品ですよね。松田さんの言われるとおりだと思います」