海童忌

 この数年、9月11日になるとこの話題を出している。今日は、女優夏目雅子の30回目の命日になる。
 ワシャの中では、オードリー・ヘップバーン原節子夏目雅子が時代や場所を超えた三大女優なんですが、夏目雅子は年齢も近く、その命が花火のように瞬間であったことから、彼女を書いている本などを読むたびに目頭があつくなってしまう。
『優日雅』(ゆうにちが)という二十回忌追悼本がある。これを読むと、夏目が単なる美人女優ではなく、きわめて負けん気の強い女性だったことがわかる。
 例えば作家の伊集院静をめぐる桃井かおりとの恋のバトル。後年、桃井が「(夏目には)いざという時は死ぬ、みたいな勢いがあった。みごとだな、かなわないなと思った」と述懐している。
 夏目は酒がかなり強かった。強い酒からより強い酒にいく、典型的な酒飲みである。こういったところからも、負けん気は強さを装っていたものの、それがガラスのような繊細な心をカモフラージュするための、彼女なりの武装だったような気がする。実際にはショルダーバッグの中に睡眠薬を常時持ち歩いていたそうである。
 それに繊細でなければ、俳句界の重鎮金子兜太がここまでは絶賛すまい。
「スタイルが自由で、情熱的。驚くと同時に感心しました。自由律、あるいは自由律まがいの句が多いが、五・七・五の定型に収められている句にも自由奔放さが出ていますね」
「この人は自分が思っていることを映像化する力、イメージする力を持っている。言語感覚が鋭いと言うか、表現力がある」
 兜太が選んだ海童ベスト5にこの句が入っている。

湯文字乱れし冷奴の白

 兜太の解説はこうだ。
「湯文字の乱れているというのが女性の姿。冷や奴がそこに白々とある。女一人というより、そこに相手の男がいる情景。これは夏目の内面なのだろうか?やや下町風の艶っぽい風景ですな。それをぬけぬけと書いたところが面白い」
 湯文字とは浴衣のことで、それがやや乱れている。そこから何を想像するかというと、何ですな(笑)。
 あれから30年、時の過ぎゆくのは速い。合掌。