歌舞伎の本

 基本的に休日は仕事なのだが、たまに休みになることがある。そんな時は、本屋、古書店ブックオフなどを巡るようにしている。ブックオフの宣伝ではないが「遠くへ出かけるとカラダがしんどい。かといってまったく出かけないと心がしんどい」なのだ。連休などほぼ望めないので、せいぜい本屋系をうろうろするのと、最近はそこに近隣の神社仏閣御朱印帳巡りが加わって、ゆる〜い休日を過ごしている。
 2〜3年前には考えられなかったなぁ。あの頃は、休みになると上京したり、京阪奈方面に出かけていった。セミナーだって講演会だって、金も暇も惜しまずに走り回って、いろいろな人たちとネットワークを結んできた。今はその遺産で食っているようなものだわさ。
 年齢のなせる業か、あるいは気力がなくなってきたのか、もう一花咲かせようとは思っているが、人の世と言うものは己一人ではなにも出来ないからね(苦笑)。

 さて、そんなことはどうでもいい。休日の本屋巡りで見つけた冊子である。1976年正月の「寿初春大歌舞伎」の筋書き、ほぼ40年前のレアのものですぞ。なにしろラインナップが凄い。六代目歌右衛門、二代目鴈治郎、十七代目勘三郎、八代目幸四郎十四代仁左衛門、四代目雀右衛門などなど昭和後半の大看板がずらりと並んでいる。末席には二十歳そこそこの駆け出し役者の勘九郎(十八代目勘三郎)が名を連ねていたりするのはご愛嬌。
 表紙を描いているのは前田青邨で、雪を頂いた富士の峰の手前を鶴が飛んでいる。青邨は富士山をよく描いているが、豪快なタッチでいかにも新春に相応しいと思う。
歌舞伎(役者は代わっているが)も、名人の手による絵画も、こういったものは年代を経てもちっとも色褪せない。けれど、こっちのほうは時代を感じさせる。筋書きの中に挟みこまれている広告である。
 東芝ICブライトロン
http://autofocus.sakura.ne.jp/data480/ad_html05/ad_023.html
って、懐かしくないですか。ブラウン管でしかもブラックストライプだったんですね。記憶にありますか。同じ広告でも「亀屋万年堂」とか「カステラの文明堂」は同じものを丹精に造りつづけている。伝統・文化に根ざしたものは百年を重ねても変わらない。他のものに換わらないということなのだろう。残念ながら家電などというものは、ここ40年で激変しているんですな。おそらくこういった分野は伝統文化にはならない。「あの人は今」と同じような扱いで、やがて人々の記憶から消えていくのだろう。
 40年前の歌舞伎座の筋書きを見つけて、伝統文化の重みをあらためて痛感した。