土方玉豊

 題名に「司馬遼太郎」とあると、ついついその本を購入してしまう。一昨日もそうだった。壮行会に行く前にいつも本屋に寄った。そこで、新海均『司馬遼太郎と詩歌句を歩く』(潮出版社)を見つけたのである。著者のことは知らない。かつてどんな文書を書いて、司馬さんにどんな評価をしていた人なのか。
 ただ、いわゆる「司馬本」というものは数多出されているけれど、詩、歌、句に特化したものはなかったから、そういった点では目を引いた。目につけば即購入ですな。
 司馬は、その文章の中でうまく詩歌句を使った人でもある。とくれば、おそらくこのラインナップになるのではないか、というところを素直に並べている。『燃えよ剣』の土方歳三と俳句。『坂の上の雲』の子規と俳句。『空海の風景』の漢詩。『義経』の和歌、今様。『酔って候』の鯨酔候と漢詩などなど。
 文久3年3月13日、京都壬生において近藤勇芹沢鴨土方歳三らにより「新撰組」が結成されている。その関連で土方の句を見てみよう。鬼の土方、豊玉(ほうぎょく)という号で俳句を詠んでいるが、はっきり言ってうまくない。司馬さん、沖田総司の口を借りて「おそろしく下手で、月並みな句ばかり」と言わせている。
 玉豊、今の季節の句にこんなのがある。
「人の世の ものとは見えず 梅の花
「春の世は むつかしからぬ 噺かな」
「「公用に 出てゆく道や 春の月」
 なんだか下手でしょ。でも、新撰組の副長が一人座敷で句に呻吟している風景を想像してご覧なさいよ。とても土方歳三という人物が可愛らしく思えませんか。