新選組をつくった男 その1

 詩人の中村稔さんが『司馬遼太郎を読む』(青土社)を出した。俎上に上げられたのは、『坂の上の雲』、『梟の城』、『新選組血風録』、『燃えよ剣』、『竜馬がゆく』、『世に棲む日日』などなど。
 中村さんは、司馬遼太郎記念館の理事をつとめるほどの方だから、もちろん司馬作品の愛読者である。しかし、『燃えよ剣』に関してだけは、「失敗作」と断じて厳しい。その理由を中村さんはこう指摘する。
《その主人公、(新選組副長)土方歳三司馬遼太郎の作品に登場する多くの人物の中でもっとも私が嫌悪感を覚えている人物だからです。》
 中村さんは、土方歳三と、彼が天塩にかけて育てた新選組という組織にまとわりつく血脂の臭いを嫌ったのだと思う。
《ともかく敵を倒し、葬るためには、手段を選ばない、いかなる方法を採ることも辞さない、冷酷、無残なものであった、と、私は考えます。》
新選組の組織とはスターリン体制よりも苛酷といってよい、非人間的な組織であると考えます。》
《ひたすら新選組の名を挙げ、手柄を独り占めにしようとする土方のこういう気性が気に入らないからなのです。》
 土方も嫌われたものだ。
(下に続く)