土筆これからどうするの……

「土筆(つくし)これからどうするのひとりぽつんと」
 渥美風天の句である。ワシャは俳句のことはよくわからない。山頭火みたいな句だなぁとは思うが、この句が上手いのかどうなのか見当もつかぬ。ただ俳優の小沢昭一さんは、高く評価をしていて「やや破調ですが、温かみとペーソスの漂う句」と書いている。
 冒頭に風天の句を持ってきたのは、今日が渥美清の88回目の誕生日だったから。

 実はこの日記は先週から書こうと思っていた。少しずつ資料なんかもあさっていたのだ。3月4日(水)「BS朝日・昭和偉人伝スペシャル」で渥美清の特集があった。それは車寅次郎としての渥美清ではなく、素顔の渥美清にスポットを当てたドキュメントだった。内容はすでに語られていたものだが、それでもこれだけまとめてあると、渥美清という人物が理解しやすい。
 例えば、「男はつらいよ」の命名についてのエピソード
http://www.gavza.com/nikoniko/tora/song.html
もけっこう有名なのだが、こういった話が渥美清の歴史とともに語られている。足搔きに足搔いた若い時代、全力疾走で走り抜けた中年の時期、そして悟ったように自らを誇示しなくなった晩年と、渥美清の人生は映画よりもおもしろい。
男はつらいよ 寅次郎紅の花」第48作で、大震災直後の神戸の瓦礫の前に立つ渥美清の表情はすでに菩薩のような静けさをたたえていた。
 生きていれば87歳の大俳優である。森繁久弥に感化されて俳優となった渥美ではあるが、森繁のように老いてもカメラの前に立ち続けたとは思われない。体力の限界を悟った時点で銀幕から潔く身を引いてしまったのかも知れない。
「もうどう見られてもいいんだよ」
 神戸で笑顔を見せない渥美に関敬六が忠告をすると、そう淡々と答えたという。そういう言動を聞けば、やはり私たちが見ることにできた渥美清は「紅の花」でお仕舞だった、渥美清は完結していたということである。