腐す人たち

 今朝の朝日新聞。文化欄の「はがき通信」コーナーに、76歳の老人が「違和感」と題して、9日放送の「鎌倉殿の13人 裏話トークSP」について投稿している。要は、ドラマの中で厳しい役柄の出演者が、ドラマの中で熱演しているのに、番宣のようなトーク番組で敵同士が笑いながら語り合っていることに「違和感」を感じると言うのだ。さらに俳優の手本として《渥美清は私的なことを語らないプロだった》と言い、俳優にある種の厳粛さを求めている。

 そうかなぁ、渥美清渥美清でいられた時代というのは30年も前の話で、今の俳優たちは、あの頃ほど特別な存在ではなくなっている。バラエティーにも出るし、私生活は週刊誌に暴露されるわで、渥美清高倉健のように泰然としていられない時代なのである。だから、北条義時役の小栗旬さんにしても、CMにも出ているし、いろいろな番組で顔を見ることになる。

 この老人、小栗旬小池栄子に「役を演じている時はそこに没頭すべきで視聴者にそれ以外の顔を見せてはいけない」と言っている。

 違うね。例えば、そのトークに歌舞伎俳優の坂東弥十郎も並んでいたけれども、俳優の原点である歌舞伎は、演目と演目の間に口上を挟むことがままある。前の演目で悲劇の主人公を演じていた俳優が、口上では滑稽なことを言って会場を沸かせるなんていうことはいつものことだし、そこに前の演目の役柄を引きずっていてはお客さんに失礼だ。

 同様に、テレビや映画の役者にしても、ドラマの中ではシリアスな人物を演じ切り、番宣では、撮影時のエピソードを面白おかしく視聴者に披露してくれればいい。

 ワシャもこの番組を見たのだけれと、トークに参加した小栗旬やビデオで登場した大泉洋のひたむきな役者魂を感じられ、とてもいい番組だと思った。渥美清とはまた違った俳優たちの生き様が格好よかった。

 そこから話が飛んでいくのだけれど、芸能人やスポーツ選手の2世で、安易に役者を志す若者がいる。ここでは誰とは言わないが、小栗や大泉、もちろん渥美などの本物の役者の生き様をしっかりと確認した上で、俳優という仕事を選ぶべきだろう。

 残念ながらアイドルや芸人が簡単に俳優に移ってくるが、その学芸会のような演技を見ていると、頭がくらくらしてくる。

 この老人も、しっかりと小栗や大泉の演技を味わって、吟味してから、はがきを出そうね。間違いなく小栗も大泉も本物のプロであり続けるだろう。