時代小説好きには、今日はちょいとした記念日だ。寛政2年というから、田沼意次が失脚し、松平定信が登場する寛政の改革の真っ最中。赤穂浪士の討ち入りから90年、ペリー来航まで60年の頃、浅間山が噴火し、天明の飢饉で多数の餓死者を出した暗い時代である。地方で食い詰めた連中が、繁華な江戸に流れ込み、悪事に手を染めていくのも必然といえる時代背景だった。
そんなとき江戸湾に人工島が出来上がる。石川島と佃島の間の足沼を埋め立てて人足寄場を造ったのだ。無宿人や刑期を終えた犯罪者を収容し、手に職をつけさせる更生施設とも言える。現在は、佃大橋を渡って、左手に住吉神社があるが、その東の佃小学校あたりになるのではないか。
この施設を造ったのが、「鬼平犯科帳」の長谷川平蔵であった。派手な立ち回りばかりでなく、府内の治安を改善するためのこういった地味な施策にも取り組んでいたんだね。
このところ話題にしていた山本周五郎の作品にも、この人足寄場は登場する。『さぶ』である。主人公であるさぶの朋輩である栄二が盗みの嫌疑を受けて、石川島送りになってしまう。そこから長い物語が始まるのだが、「男の献身」を描いた名作である。未読の方は、ぜひ、ご一読を。