日本語が通じない

 ワシャは高校生の頃「禅者」を目指して金剛禅総本山少林寺の門を叩いた。いや、単に喧嘩の技術を学ぼうという程度の低い動機だったかも(笑)。
 その時に、一人の先輩と知り合った。ワシャよりも2つ上の人で、ワシャが高校1年だったときに、市外の高校で生徒会長をしていたから、ずいぶん大人に見えたものである。
 当時、ブルース・リーが全盛の頃で、だから少林寺拳法も隆盛を極めていた。ワシャを筆頭にしてアホなガキは、猫も杓子も「ショーリンジケンポー」にはまった。
 ブルース・リーの代表作『燃えよ!ドラゴン』の中で、彼がそう言ったんで火がついたんですね。
 そんなことはどうでもいい。その先輩のことである。仮にK先輩としておこう。この人がとてもいい人だった。道場でも後輩の面倒見がいいし、性格が温厚で、なにがあっても怒らない。いつもきちんとしていて、発言にも一本筋がとおっていて、ぶれない人だなぁという印象を持ったものである。だから後輩たちの信頼は厚く、アホガキどもには恐い師範よりも人望があったかもしれない。
 ワシャは初段をとって、大学に進学したこともあって、道場から足が遠のいたが、K先輩はその後も続けていた。
 大学の2年のときだったかなぁ。久しぶりにK先輩から連絡が入った。
「ちょっと話がしたい。いついつにどこどこまで来てくれないか?」
 という内容で、もちろん世話になった先輩からの誘いなので、国鉄の駅の裏のブロック瓦葺の古い建物に出かけたのである。
 午後7時くらいだったかなぁ、ワシャが勝手口のような玄関ドアを開けると3尺四方のたたきに汚れた靴が山積みになっている。その乱雑さが、K先輩の折り目正さとつながらない。だから建物の中に入った瞬間に違和感を覚えた。
 建物は2つの畳の部屋と台所、トイレ、いわゆる2Kである。部屋の間には鴨居があるが、ふすまは取り払われて、一間使用となっている。そこに、どうだろう、15人くらいの若者(といっても30代と思しき労働者風の男もいる)がたむろしていた。その中にK先輩もいたけれど、少林寺の道場で放つような精彩を欠いている。なんだかとても小さく見えた記憶が残っている。
 話が長くなっているので端折るけれども、要は左翼系のグループの会合に誘われて、ワシャが中央に座らされているということなのだ。
 リーダーらしき30代の男は、ワシャの前に座り、数人が車座になり、その周りを残りのメンバーが囲むという二重の輪になっている。
 今考えれば国鉄系の活動家を中心にしたグループだったんでしょうね。そのグループが組織の拡大をもくろみ、仲間の友人などでこれといったのを引っ張ってきて、勧誘を図っていたのだと思う。それでK先輩は、ワシャに白羽の矢を立てたわけだ。よりによってワシャに白羽の矢を立てるとは(笑)。
 ワシャが「グループに入ります」と言えば5分で済んだのだろうが、言うわけないじゃないですか。日付が変わる頃、K先輩は「なんでこんな面倒くさいのを連れてきたんだ」と叱られていたが、自業自得、先輩、見る目がなかったんですね(悲)。
 結局、朝までかかってもアホガキは説得されなかった。だって、ワシャは当時から日本の歴史、文化、伝統、和食が好きなんだから、そいつらと言葉が通じるわけがない。

 なぜこんなことを長々と書いてきたかというと、コラムニストの勝谷誠彦さんの有料メルマガに、このニュース《「歌とダンスで、楽しく戦争反対」 官邸前イベント参加の福島瑞穂氏に「不謹慎」の声も》
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150127-00000001-jct-soci
が取り上げられていた。
 このニュースに関わる勝谷さんのコメントが奮っている。
福島みずほセンセイである。田嶋陽子さんもそうだが「言語としての日本語は通じていても、気持ちとしての日本語は一切通じない」んですよ。私はなんども福島さんと話したことがありますよ。でもね、言語は通じても言葉は一切通じない。ヘンな宗教にハマっている人と、そういうのがあるでしょう。まったくあれと同じ感覚。》
 またっく同感である。
 
 これも勝谷さんからの情報に依るのだが、《「着物でテロに対抗」議員たちが記念撮影 恒例行事が物議醸す》
http://www.huffingtonpost.jp/2015/01/27/waso-giren_n_6552514.html
 この人たちのこの呑気な笑顔はなんなのだろう。今、ピリピリするような緊張の中に官邸はある。国民だって心ある人は、思いを中東に馳せているだろう。その状況下で、和服でみんなそろって、はいチーズ、おそらくリーダーの伊吹文明が阿呆なのだろうが、状況を弁えれば参加しないという選択肢もあったはずだ。嘲笑のネタを世界に向けて発信するのは止めてくれ。言葉の通じぬ人々よ。