まだ旅の空

 ハードスケジュールをこなしている。今朝は、9時、玉造温泉のホテルを出て、境港に車で向かった。中海を右手に眺めるかっこうで、国道431号を快適に走る。
 それにしても、島根ナンバーはマナーがいい。三河の運転マナーの悪さと比べると雲泥の差がある。ただ、マナーが良すぎるために老人たちは、時速30キロくらいで走行して円滑な交通の妨害をしているという。このためパトカーが「もう少しスピードを出してください」と注意をしているくらい(笑)。
 それにしても山陰という語感からか、日本海に面した天地の狭いところをイメージしていたのだが、そんなことはまったくなかった。湖の面積で5位の中海と7位の宍道湖――2つ合わせると第2位の霞ヶ浦に匹敵する――を抱えた出雲平野は、予想以上に広やかである。古代のころより人が集まり、文明が開花したということもうなずける。
 今日の目的は境港にある。水木しげるロードで年間300万人の集客をほこる商店街の状況を実際にこの目で確かめたかった。
 午前10時前には、フェリー乗場東の駐車場に着いていた。もうそれから駆け回るようにして水木しげるロードを実費というところが悲しいが、じっくりと視察したのである。
 うううう……境港はすごいな。300万人を集めるのにさしたる予算を賭けていない。「賭けていない」は誤記ではない。地方の町の活性化と称して行政予算を費やすのは、ある種の博打である。境港のように賭けて大いに当たるところもある。しかし、博打に負けてすってんてんになっている自治体もごまんとある。しょせん町をつくると言っても、そこには人智をこえた運というものも関わってくるし、たかが小さな地域で算数ができるくらいの秀才程度の描いた絵図面などどれほどの効果があろうか。
 おっと話がずれた。境港の話だった。境港の町づくりの担当者は、境港から出た有名人の水木しげるに目を付けた。
「あの大ヒットアニメの『ゲゲゲの鬼太郎』で町づくりはできないだろうか」
「妖怪のブロンズ像を作ってシャッター商店街に並べよう」
 と考えた。
 これには商店街から反対が起こった。
「なんでわしの店の前に化け物のオブジェを作らなきゃなんないんだ!」
ということなのである。考えてみればそうですよね。妖怪なんてそもそもが怨念や恨みをもって死んだものたちが化けてでたものでしょ。けっして気持ちのいいものではない。例えば「貧乏神」に店の前に立たれてごらんなさいよ。とてもじゃないがおちおち寝ていられるものじゃない。

 このあたりを伯備線の高梁あたりで書いている。(つづく)