プレデター

 教育学者の齋藤孝さんが『嫌われる言葉』(講談社)の中でこんなことを言っている。
「上司の口にする『オレは聞いていない』という言葉は部下のやる気をなくさせる」と。これは実社会でよくある場面で、いちいち決裁をとれば煩雑で仕方がない。スピードが問われる昨今、口頭で確認をして次の展開を摸索するということはよくある。
 無謬主義(自分は失敗をしない)だから責任もとらない上司にはよくある言動である。大きな事業を動かすとき、これも相手のあることで、社に持ち帰って稟議決裁を回してから「よろしくお願いします」では間に合わないことが多々ある。その場で即断即決し、事後、上司に「こう言うわけで話をまとめてきました」ということができないと、なかなか物事は動かない。
 しかし、一切の話を、逐一耳にしていないと、納得をしない小物上司は「ホウレンソウはどうした!」と目くじらを立てて、部下を叱りつけることになる。「お前たちが勝手にやるなら、オレは降りる。お前たちが責任をとってやればいいがに……」と口から泡を飛ばすおまえはカニか?
 上の人間は、上になればなるほど、部下に怒りを見せてはいけない。組織を維持していくのに怒ってもいいのは、天才、天魔と言われた織田信長くらいのもので、秀吉にしたって家康にしたって創業期は、部下に気を使う気配りのリーダーだった。
 自信のある人はあまり怒らない。自分の能力を熟知しているから、足りない部分は部下に補わせる。それでいいのだ。しかし、自分は有能だと思い込んでいる者に限って、部下が自分の能力を超えて活躍するといじいじと妨害をしてくるから困る。自分に発想力がないことをさておき、有能な部下に対し、報告、相談がないことで「蔑にされた」「軽く見られた」と被害者意識まるだしで、それが怒りとして、唾となって吐き出されるのである。
 よくどなる上司、会議でも文句ばっかり垂れている幹部っていうのは、組織にとっては害悪と言っていい。