数年前のことである。よく叱る上司がいた。特に怒るのが「聞いてない」ということについてである。なにしろその部署の仕事について、一から百まで聞かされていないと怒り出す。そういう上司がいた。もちろん部下のワシャはちゃんと報告していましたがな。でもね、時には「速し良し」ということもある。先に動いて結果を出して、事後報告ということも時には必要なこともある。でもね、真面目な上司でねぇ、それは許してくれなかった。とくに標準からずれた感じのワシャの雰囲気が気に入らなかったんでしょうね。ワシャのいないところで、「なんだあいつは!あんなバカはいない!」と悪口を言っていたことは、それは何人もの友だちの証言から露見している。
仕事を叱るのではなく人格を責めるのが得意な上司だった。あとでフォローすることもなかった。一旦嫌うととことん祟ることで有名な人だった。実際にワシャも長く祟られた。部下を比べる人でもあった。出身校で比べるのが好きだったなぁ。
気が短い人だったので、長く叱ることはなかったが、怒りだすと自分で自分が制御できなくなるタイプだった。気に入らなければ「出入り禁止だ!」と怒鳴る。その場はそれで終わるが、そこから取り付く島がない。4年以上、その怒りを根に持って口をきかなくなる。その執念たるやすごいものがある。怒りに明るさがないんだな。陰湿な怒りでは組織が活性化しない。こういう上司にあたると部下はヒラメばかりが増殖してくる。
一冊の本が手元にある。山中伸弥・平尾誠二『友情』(講談社)である。一昨年の10月に亡くなられた神戸製鋼のラグビー総監督の平尾さんとノーベル賞受賞者の山中さんの死までの交流を編んだ本であった。
いい本でしたよ。全く分野の違う二人がちょっとした縁で知り合って、その後、6年間、平尾さんがお亡くなりになるまで親交を深めた友情の話です。生きるとはどういうことかということを示唆した部分もあちこちにあって、良質な対談本だと思いました。
ただ、やはり平尾さんという日本ラグビー界の巨星と、山中さんというノーベル受賞の大学者の出会いなんですわ。そりゃおたがいに一目も二目も置くでしょうし、まったく畑違いとはいえ頂点を極めた者同士、話も合うでしょう。とてもすばらしい人間関係がつくれたと思いますが、それがすべての人に当てはまるケースかというと「少し違うかな……」と思うへそ曲がりなワルシャワであった。
でも、頷けるところもたくさんあったんですよ。第3章にあった「人を叱る時の四つの心得」である。
「プレーは叱っても人格は責めない」
「あとで必ずフォローする」
「他人と比較しない」
「長時間叱らない」
この四つであった。
これは平尾さんのオリジナルではない。けっこうあちこちの「マネジメント本」や「管理職研修」では当たり前のように指導される内容である。これについて山中さんは「さすがやな」と思ったそうですが、おそらく山中さん、研究が忙しくてその手の本や研修には行かれていないようですね。ただ人を叱るときのお手本のような叱り方ということで、それを平尾さんは実践しておられたということである。
昨日のある会議で、前述した上司がこの『友情』の本の話、それも「叱り方」の話をした。身についたかどうかは知らないが、読んでるじゃん(笑)。