カルピスの記憶

 昨日、文房具を買うためにスーパーに立ち寄った。ノドが渇いたので、ついでに飲み物を買う。なにをとち狂ったか「ザ・プレミアムカルピス」という飲料を手に取ってしまった。久しぶりにカルピスを口にしましたぞ。20年ぶり、あるいはもっと経っているかもしれない。でもね、これがけっこうコクがあって、甘さも控えめで美味いんですね。

 高校時代、駅前の喫茶店がワルのたまり場だった。半地下になった店で、一番奥に設えてある4席ばかりのカウンターの脇に、外から死角になったテーブルがあって、そこが指定席である。ママは苦労人で、ワシャらが小生意気にタバコをくわえているのを「あんまり吸いすぎるんじゃないよ」と叱りながらも許容してくれていた。
 その店で夏場よく飲んだのが、カルピスコーラだった。リーゼントの兄さんが、タバコを吹かしながらカルピスコーラを飲むというのは、絵になりませんわなぁ。一面、大人ぶっているようで、味覚的にはまだガキだったですな。
「ザ・プレミアムカルピス」を味わって、この時代の風景が脳裏に浮かんでは消えた。

 茂木健一郎さんの話だったと思うが、記憶は、脳の中にニューロンニューロンの間の結合パターンとして残されていて、失うということはないのだそうな。過去の記憶は、脳のどこかに格納してあって、忘れたと思うのは、そこへのアクセスができないだけのことで、なにかきっかけがあれば、その記憶にアクセスして思い出すらしい。
 ううむ、まさに味覚、この場合はカルピスの味が引き金となって、長らく途絶えていた何十年も前の記憶が甦ったのだ。「サ・プレミアムカルピス」を飲まなければ、半地下の喫茶店の奥から見上げていた駅前の風景など、おそらく思い出すことはなかったろう。