日教組との楽しいキャンプ

 友人のTくんから高校の時の話を聴いた(笑)。
 その頃、Tくんはブルース・リーの影響で少林寺拳法を習い始めていた。拳法仲間に実業高校へ通っている先輩がいて、その人から「夏のサマーキャンプ」なるイベントに誘われたという。あまり気乗りはしなかったが、面倒見のいい先輩だったので、結局、参加することにした。
 窓口は、各高校の日教組系の教師だった。先輩から、その教師の名前を教えてもらったので、翌日、職員室をたずねて「先輩から紹介されました」と告げた。Tくんの声は高校時代から大きい。その教師は、Tくんの口を押えて人気のない会議室に連れていった。そこで、いろいろな説明を受け、書類を書かされて、めでたく「日教組キャンプ」参加と相成ったそうな。

 サヨクのキャンプだろうと、右翼のキャンプだろうと、若い男女が集まればそれはそれなりに楽しい。愛知県内の、どこだったかなぁ、まぁいいや、どこぞのキャンプ場で高校生が200人くらいいただろうか。そのガキどもを統率するために、20人くらいの教師(後で考えると一般の大人も混じっていたようだ)も参加している。この大人たちも一緒になって飯盒炊飯をしたり、キャンプファイアーを楽しんだりと、それなりのキャンプ生活を過ごした。
 唯一、通常のキャンプと違うのが、午前、午後、夜と3回、班ごとにバンガローで討論会があったことだろう。テーマもすっかり忘れてしまった。覚えていないということは、あんまり、Tくんの興味を引く内容ではなかったのだろう。Tくんはいつも後ろの方で静かに煙草を吸っていた記憶しか残っていないと言う。
 でもね、マナーはわきまえていて、吸う前にバンガローの他のメンバーに「タバコ吸うからね」と断りを入れていたんだそうな。
 初日の午後の討論会だったかなぁ、進行役の班長がとてもテンションの高いヤツで、10人ばかりのメンバーの前で、滔々と持論を展開した。教育のあり方、人権とはなんぞや、とか、つまらない話だったので、Tくんは積極的に議論に参加しなかった。その態度に班長がきれた。
「きみ、議論に参加したまえ」
 そいつは、Tくんより1学年下だった。高校時代の1学年の差は大きいですぞ。
「……きみ?したまえ?」
 コーラの缶で煙草を消すとTくんは立ち上がった。
「誰に言っとんじゃ」
 ボコボコ。
 その後、班長は謙虚な人になったという。めでたしめでたし。
 おっと、そんなことはどうでもいい。

 問題は、付き添いの教師だった。彼もその討論会に立ち会っている。Tくんと班長のやりとりも、終始眺めて口を出さない。
「喧嘩をしようが、タバコを吸おうが、それは個人の問題だ。だから僕はあえてTくん君をとがめない」
 と、黙認してくれた。え?それでいいの。
「コラ!オレの前でガキ同士で喧嘩してんじゃねえよ」
「バカヤロー!オレの目の前で偉そうに煙草を吸うな。ケツの青いガキのくせしやぁがって」
 くらいは言ってほしいよね。
 だから、キャンプの間中、Tくんは教師公認で煙草を吸えたのだった。その他にも数人の喫煙者がいたが、やつらも同様だった。でも、それでいいの。
 日教組の教員というのは許容力があるなぁ……と思った青春時代だった。

 と、Tくんは言っていた(笑)。