少数精鋭の欺瞞

 少数精鋭を声高に叫ぶ組織がある。確かに一面ではそういった理屈も通るだろう。しかし、精鋭でないものを精鋭と詐称して「精鋭だから少数でできるだろう」と仕事を押し付ける。このことにより精鋭でない人間は、オーバーワークとなり体調を壊して戦線離脱をしていく。一旦、離脱者を出すと、これはどこの組織でもそうだし、例えば歴史上でも明確だ。
 最強を誇った甲州武田軍団は、勝頼の荒っぽい人事と戦略により、長篠合戦も敗戦以降、離脱者が出始める。抜け出した櫛の歯はもろい。長篠前夜、甲州軍団の動員能力は3万程度だったろう。当時の日本にあって、もっとも高密度に、強靭な紐帯で結ばれた組織だった。しかし、離脱者、造反者が一人また一人と出ていく中で、最強だった甲州軍団は、もろく滅び去っていく。
 近現代になると、さらに愚かな少数精鋭をやった組織があった。日本軍である。そもそもアメリカに工業力、軍事力、経済力で勝てるわけではない。そのことは、賢明な陸海軍の将官たちは知っていた。知っていはいたが、米英などのしたたかな外交で追い込まれた日本は、乾坤一擲の戦いをしなければならない状況だった。そこで戦力の集中で緒戦勝利を得て、外交交渉の場で話をつけるという方針で「開戦」を選択した。
 そこまでは、国家の選択としてやむを得ないと考える。ただ、その後の対応がよくない。基本的な思想が「少数精鋭」なのである。その少数に充分な物資兵器も与えず「精神力」で物量のアメリカに対抗しようとした。愚かである。
 実際に日本の兵士は強かった。精鋭だったと言っていい。それでも将官参謀本部が現実を見ていないと敗北を喫するという最悪の例である。
 それがでっせ、精鋭でない組織で、国のためとか、愛する人を守るためとか、強いモチベーションもないのに、大きな責任を負わされ少数で業務遂行しろと命令されても、それはできる相談ではない。
 おのれを優秀だと思い込んでいる経営者やリーダーは、終戦直前の参謀本部と同じだと思ったほうがいい。口ではなんとでも言える。しかし、現場は疲弊しているということを忘れてはいけない。