少数精鋭を叫ぶバカ

 今日は8月21日、先の大戦では重要な記念日のひとつである。
 ガダルカナルの惨敗。
 昭和17年8月18日、ソロモン群島のガダルカナルの飛行場を奪取するために歩兵第28連隊を島に上陸させる。28連隊は精鋭部隊だったが、アメリカ軍に包囲され、急降下爆撃などの圧倒的な火力により21日に全滅した。これがガダルカナルの死闘の火ぶたとなる。
 その後、日本軍は3万余の兵力を投入する。この後は「餓島」と言われるほど悲惨な戦場になってしまう。死者数は通常の戦闘としては尋常でない66.2%であった。死傷者ではない。死者数がである。
 苦戦を強いられたのは上陸兵員だけではない。海軍の航空部隊も悲惨を極めた。このあたりは百田尚樹さんの『永遠の0』に詳しい。小説でも映画でもコミックでも語られているが、ベテランの熟練搭乗員が酷使され、次から次へとソロモン海に散っていった。ラバウルの飛行場からガダルカナル島まで片道1000キロである。それを飛んで、敵機と戦って、また1000キロをもどる。そんなことが生身の人間にできるわけがない。百田さんの最新刊『戦争と平和』(新潮新書)を引く。
《このような過酷な作戦に投入するゼロ戦に、日本海軍は連日のように熟練搭乗員を起用しました。困難なミッションだからということもあるのでしょうが、飛行機が大事だったからです。(中略)その結果、熟練搭乗員は酷使されます。当時の戦闘記録を見ると、一週間に五回とか六回出撃したという例も見られます。》
 アホか!少数の精鋭を酷使し潰していく。これはどんな組織にはめ換えても同様で、長期的な勝利はあり得ない。人を大切にする、そのために必要な金は使う。
 人は一朝一夕には育たない。今は前の人が育てた遺産で喰っていると思ったほうがいい。今、熟練搭乗員を潰すようなことではだめだ。熟練搭乗員を戦死させずに、次のための人的育成を進める……このあたりのコツを理解していない人間が人事を掌握すると組織は死ぬ。即死はしない。徐々に患部がひろがってやがて致命的なものとなっていくのである。
 そもそも普通の組織に精鋭はいない。いたとしても酷使すれば破綻が生じる。一か所が破綻すれば「牆(かき)のやぶるるや隙(げき)よりす」である。

 そうそう夕べ、今年初めての虫の声を聞く。秋がそこまで来ている。