八雲立つ出雲の国

 島根県松江市に親戚がいる。でもなかなか行くことができない。三河からだと距離的には茨城県水戸市とそれほどちがわないのだが、やはりアクセスに差があって、松江には距離を感じざるをえない。逆に距離を感じるので郷愁を持つのだろう。
 小泉八雲ラフカディオ・ハーン)は松江のことを「神々の首都」と呼び、心より愛した。彼の著作『日本の面影』を読むと、松江ってほんとうにいいところなんですね。

 米を搗く振動で目を覚まし、禅寺の梵鐘を聴き、地蔵堂での朝の勤行を知らせる悲しい太鼓の音を耳にする。こうした物音に起こされて、八雲は障子をあけ放つ。
《眼下に流れる大橋川の幅広い鏡のような水面が、すべてをうつろに映し出し、きらきらと光っている。その水面は宍道湖へと注ぎ込み、灰色に霞む山々の緑まで、右手方向に大きく広がっている。川向うでは、尖った青い屋根の家々がどこも戸を閉め切っていて、まるでふたを閉じた箱のように見える。夜は明けたが、まだ日は昇っていない。》
 早朝から単調な杵搗きの振動や、太鼓の音、読経の声を聞かされれば、およそ迷惑だろうと思うのだが、日本という国のすべてを愛して、すべてを求めた八雲には、そのどれもが心地のよい「日本」だったのだろう。
 世界への日本の紹介者として、まず小泉八雲は第一等の人である。こういった日本を愛してやまない異国の人々を見習って、自分たちが身を寄せる日本という場所にもう少し愛を注いでもいいと思いますぞ。福島瑞穂さん、田嶋陽子さん。

 明日、ラフカディオ・ハーンは横浜港から始めて日本に上陸する。