読書のT.P.O.

 読書には「時」「場所」「場合」がある。
「時」は読み時である。例えば作家の日垣隆さんが主催する「古典読書会」では、大晦日樋口一葉の『大つごもり』を読んだ。あるいはクリスマスに百田尚樹の『輝く夜』などもいい。春夏秋冬、もっと細かく二十四節気にも、それぞれの時季に合った読書が可能だ。
「場所」は、その場所で読む、もしくは行く場所のことを読む。例えば京都に行く前に、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』にちょっと目を通しておくとか、松江に行って小泉八雲を読むなどもいい。日垣さんはキューバの海岸まで行ってヘミングウエーの『老人と海』を読む。
「場合」は必要とした場合である。ワシャは一時期、会社の防災部門に配属されていた。防災関連の顧客と話をするためには知識が必要となった。だからとにかく防災関連本を購入し読みあさった。中でも、吉村昭の『三陸海岸津波』は役に立った。今でこそ「東日本大震災」を目の当たりにして、みんなが津波の怖さを認識した。けれども、まだ南海トラフ地震が「東海・東南海・南海地震」と呼ばれている頃は、「三河湾にも津波が来る」と言っても、誰も反応しなかった。そこで『三陸海岸津波』が役に立ったものである。
《私は、ぶるぶるふるえて外に出ましたら、おじさんが私をそって(背負って)山へはせ(走り)ました。山で、つなみを見ました。白いけむりのようで、おっかない音がきこえました。火じもあって、みんながなきました。夜があけてから見ましたら、家もみんなこわれ友だちもしんでいたので、私もなきました。》
 昭和8年の津波のことを尋常小学校2年の女の子が書いた作文である。こういった証言が随所に載っている。この本のおかげでずいぶんリアルに地震災害、津波をイメージすることができた。
 それから、講演会の前に講師の本を読みこんでおくとか、作家と会う機会があれば、その人の本を何冊か読んでいくだけでも話の弾み方が違う。荒俣宏さんにお会いする時も何冊か読んで行って、1時間半ほど雑談をしていただいた。反対にワシャの先輩は永六輔さんに会ったとき、永さんに「僕の本で何がおもしろかった?」と尋ねられ、「とくに…」と答えられなかった。その後、講演が始まるまで永さんは一言も口をきかなかったそうな。

 この間から、さがしっこ絵本の『ミッケ!』
http://www.shogakukan.co.jp/mikke/
に凝っている。これがなかなか脳の疲労回復や精神安定に役立つんですね。上記のURLにも書いてあるけれど、見開き2ページに精巧なジオラマが展開し、そこにある隠されているさまざまなモノを見つけるという単純な絵本なのだが、ところがどっこいこれがなかなか見つからない。ついつい探すことに集中してしまう。そうすると他のことは頭から弾き飛ばされ、仕事のこととか世の雑事とかを、束の間でも忘れることができるのだ。
 手元に8巻まである。今、3巻目をやっている。そのテーマが「クリスマス」なのじゃ。やり始めた時期と、遅々とした進捗が偶然重なって、まさに今夜はこれで手こずることになるだろう。これも時宜にあった読書のひとつでしょ。