強制引退

 朝日新聞の大相撲担当のキャップがつまらないことを言っている。3月19日の朝刊のスポーツ欄に「強制引退へ器量を示せ」と題した持論を展開している。
《いま、40代力士が3人いる。(中略)2人は幕下に出世したことすらない。》と、前置きをして《一定年齢までに所定の地位に昇進できなかった場合は強制引退を盛り込むべきだ。》と主張する。部屋の運営に理解を示すそぶりを見せながら、3人の40代力士には厳しい。
《好きで続けている高齢力士もいるかもしれない。だが、出世の見込みのない中年力士が土俵を務める姿は痛々しい。第二の人生に送り出してやることも、協会と師匠の器量ではないか。》
 何を言っているのだろう。中年力士が、若い力士に混じって、一所懸命に土俵を務める姿は、世の中高年に元気を与えてくれる。エリート記者には痛々しく見えるのかもしれないが、そうではない多くの人がいることを忘れてはいけない。
 庶民目線を失った記者は、幕下以下に2カ月に1度、15万円ほどの本場所手当が支給される。これを言いつのる。
《衣食住は保障されているから、実は家庭持ちのサラリーマンより月の小遣いは多い。》
 月に7万5千円の小遣いが、家庭持ちのサラリーマンより多いってか?それが妬ましいから「強制引退」を声高に言い出したってことなのかにゃ。
まず基本的なことを確認しておこう。衣食住っていったって、幕下以下の力士のそれはかなり厳しい。浴衣は支給されるが、普段着は当然のことながら自腹だ。食は、確かに量は保障される。だが好きなものが食えるというわけではない。食べたいものはやはり自腹となる。それに幕下以下は大部屋での共同生活を余儀なくされる。もちろん家庭など持てない。これで、どこが家庭持ちのサラリーマンよりいいのだろう。
 件の記者、三役の選考委員も務めているので、相撲協会に一言もの申せる立場にある。それが公器(笑)で《新公益法人の定款には、新たに入門する力士は、一定年齢までに所定の地位に昇進できなかった場合の強制引退を盛り込むべきだ。》との発言はかなりの影響力を持つだろう。とうぜん件の記者はそのことも織り込み済みで記事を書いている。
 でもね、相撲部屋というのは血の通った人間の集まりなのである。それぞれの役割があって、例えば新弟子に角界のルールを仕込んだり、その部屋のちゃんこの味を教えたり、ときには部屋のマネージャーのようなこともするだろう。朝日新聞のエリート記者には経験がないだろうが、徹底した階級社会の中でアイデンティティを維持するのは並大抵ではないと思う。それでも相撲が好きだから、少しは部屋の役に立っていると信じているから、40を過ぎても土俵に上がっているのである。相撲には、まだそういった温かみが残っているから、相撲ファンは癒されるのである。
 この記者の造語だろうが「強制引退」という言葉、嫌な言葉ですね。そもそも部屋というのは家庭だと思えばいい。その家庭に「強制」などというものが存在してはいけない。
 己は頭がいいと思っている輩が、杓子定規な頭で考える仕組みなんて、まともなものなどありはしないのさ。
 相撲ファンの一人として「強制引退」大反対である。