九段の杜にて

 靖国神社遊就館でのこと。1階の「靖国の神々」のコーナで、関西から来たらしい65〜70歳の老夫婦とその娘だろうか。ちょうどワシャの前をべちゃくちゃと話をしながら展示を見回っている。
 ワシャは右翼ではない。平和を愛するごく一般的な国民である。しかし、遊就館に来た折には粛然とした気持ちをもって見学をするようにしている。言うまでもないけれども、博物館、美術館、図書館、書店などでは他の人に迷惑をかけないように静かにすることは最低限のマナーだと思っている。それにここは日本のために命を捧げていただいた方々がおわします空間である。
 件の親父が花嫁人形のコーナーに差し掛かった時に、その親父のケータイが鳴り出した。いくらなんでも靖国の神々の前では出ないだろうと思ったが、甘かった。オッサン、若き航空兵の遺影や遺書の並ぶ目の前で、ケータイに出て、バカ話を始めおった。靖国に来ているにもかかわらず、この認識の浅薄さはいかばかりであろうか。こんな日本人がいれば、そりゃ支那中国や朝鮮半島にバカにされるわなぁ。
「こらぁ、おっさん、ここをどこだと思っとんねん。外で電話せんかい!」
 そう言ってやろうと思ったのだが、御英霊の前でそれも静謐な空間を騒がせる行為だと思ったので黙って通り過ぎた。
 その後、そのオッサン、出口のところで躓いて転んでやんの。天網恢恢疎にして漏らさず。