金継ぎ

 神田の某所で気の合った仲間たちと飲む。
 のど黒の刺身があったのでそれを注文し、酒は岩手の酒「南部美人」を熱燗で頼む。やがて酒が運ばれ、猪口が並べられた。艶のある白磁に藍色でそっけない風景が描いてある。浅い高台の上品な染付で、おそらく有田のものだろう。
 おや、ワシャの猪口にゴミがついている。指で口縁にある黄金色のものを触ってみる。取れない。よく見れば口縁が欠けに二か所の金継ぎがほどこされていたのだ。
ほう……ワシャはあちこちの居酒屋を渡り歩いているが、金継ぎの猪口を出す店は初めてだった。ワシャがその猪口を手にして喜々としているのに店員が気づいて微笑んでいる。
関西あたりからのお上りさんで、静謐な場所でケータイを掛けるような地五郎なら「なんやねん、この猪口欠けとるやないけ、ビンボくさい店やな、まともな猪口をもってこんかい」と怒り出すかもしれない。
 ワシャも田舎者だけど、怒らないもんね。のど黒の刺身に山葵をそえて口にふくむ。それを金継ぎの猪口に満たされた南部美人で流し込むときの幸福感、日本人に生まれてよかったと思う瞬間である。