新幹線車中のできごと

遊就館」の話はまだ続くのだが、そればかりでは飽きてしまうので、帰りの新幹線車中の話をひとつ。

 帰りは品川から乗った。「ひかり」は空いている。それでも2シートの方はみんな1人か2人で埋まっている。3人シートはガラガラなので、5A(窓際)に座った。膝の間にキャリーバッグを挟んで、テーブルにパソコンを乗せてメールの確認などをはじめる。
 横浜で赤いダウンを着た青年が5Cに座った。座るやいなやまもなく舟をこぎ始めた。いいなぁ若いってことは。どこでもいつでも眠ることができるんだね。
 ワシャの前の4Aは初老の男性がシートを倒して寛いでいたが、三島で降車した。代りに夫婦と幼児3人連れ(旦那は日本人ではないアジア系、奥さんは白人)が乗り込んできて、前のシートに座った。
 その途端だった。父親が缶コーヒーを床に落として飛沫が飛び散った。一滴、ワシャの右手の甲に飛んできた。ワシャは大人なので(笑)そんなことでは動揺しない。しかし床を見ると、コーヒーの茶色の流れがゆっくりと押し寄せてくる。その先端は5Cの若者の真新しい茶色のブーツに向かっている。ワシャは若者の左腕をつついて、コーヒーの襲来を教えた。若者は、まだ幼さを残す顔に笑みを浮かべ「ありがとうございました」と礼を言う。そして、ワシャの足元を指さした。
 おっと、キャリーバッグの影になって見えなかったが、もう2本が流れている。それもワシャのおろしたてのリーガルを目ざして。ワシャは右足を上げて、流れから靴を外した。
 その頃、前の席では大騒ぎで奥さんがありったけのティッシュ使って床のコーヒーを拭き取っている。だが、そんなものでは追いつかない。すぐに車掌が通りかかり、4列、5列、6列に流れるコーヒーを厚手のキッチンペーパーで拭き取ってくれた。ちょっと雑だったけど(笑)。
 まぁ特段の被害があったわけでもないので、またパソコンの作業に戻った。作業を続けること数分、ふと顔を上げると、窓とシートの間から小さな顔が覗いている。ハーフの男の子、どうだろう3歳くらいかなぁ。この子のかわいらしいことと言ったらありゃしない。肌も透きとおるように白い。一瞬「天使か」と思ってしまったわい。(続く)