紅葉散る竹縁ぬれて五六枚

 今年の紅葉(こうよう)の紅がくすんでいるような気がする。ワシャの周辺では、という前提での話だが……。
 毎年、楽しみにしている櫂の樹が通勤に使う自転車道の脇にある。透きとおるような赤に染まり、その背後に立ち並ぶ銀杏の黄葉を従えて鮮やかだ。例年なら、隧道の先に額に切り取ったような綾錦が見られるのだが、その主役たる櫂の樹が茶色いのである。背景の銀杏は元気なのだが、櫂の樹がもう一つ奮わない。その樹から50mくらいのところにも、やはり櫂の樹があるのだが、それもくすんでいる。
 うちの庭の隅には山法師が植えてある。その葉もやや橙がかかって赤に切れ味がない。
 今年は、紅葉狩りに行かなかったけれど、他の地域の紅葉は鮮やかだったのだろうか。京都実相院の床は赤く染まったのだろうか。

 タイトルは漱石の句で、ワシャの好きなものである。
「もみじちる ちくえんぬれて ごろくまい」
 舞台は、漱石の家、書斎の裏庭に張り出した竹縁だ。その枯れた竹の風合いの上に霜がおりる。それが朝日にとけたところへ、紅葉がはらはらと降った。鮮やかな色彩をともなった一句だと思う。