ちりとてちん

 平成19年から半年間放送された「ちりとてちん」が、今、NHKBSでやっている。落語ファンのワシャとしては、歴代の連続テレビ小説の中でも一番の名作だと思っている。
 昨日の放送が、第八週目の終わりで、主人公の喜代美(貫地谷しほり)が徒然亭草若師匠に入門を許される回だった。
そこでいいセリフが出てくる。喜代美の父である若狭塗箸職の正典が四人の落語家の前でこう話す。
「私の師匠やった父が喜代美にこね言ったそうです」
 私の師匠やった父、というのは正典の父、つまり喜代美の祖父ですな。
「人間も箸とおんなじや。研いで出てくるのは塗り重ねたもんだけや。一生懸命生きてさえおったら、悩んだことも落ち込んだことも、きれいな模様とになって出てくる」
 若狭塗箸は卵や貝の殻、松葉などを漆で塗りこめたものを研ぎだして模様をつくる。そのことを喩えてのことなのだが、今、悩んでいる人間や、落ち込んでいる人間にとっては、じつに希望の持てる言葉だなぁ……。

「願わくは我をして七難八苦に遇わしめ給え」
 と三日月に祈ったのは、戦国武将の山中鹿介であった。まぁこれは後世の創作らしいが、山陰で主家復興のために獅子奮迅の戦いを続けた鹿介に似つかわしいエピソードなのだろう。でも、こんなセリフ、現代の若者に言えるだろうか。
 また「若い時の辛労は買うてもせよ」とは、浄瑠璃「二つ腹帯」の中に出てくるセリフである。これなんかも、金を出してもいいから楽をしたい人が多くなっているから、死語に近いのかもしれない。

 はてさて、ワシャにはどのくらいの漆の層が重なっていることやら。ポヤ〜ンと生きてきたから研いでもなにも出てきまへんな(自嘲)。明日の朝も、ポヤ〜ンと「ちりとてちん」を見ようっと。今のところ「ごちそうさん」よりおもしろいんでね。