佐久間象山の残したもの

 時々煙草を吸っている夢をみる。夢の中に、煙草を吸って「しまった!」と思っている自分が登場する。昨夜もそうだった。すでに煙草を止めてから25年が過ぎているんですけどね(笑)。
 でも、夢をみる理由はいたって簡単だ。昨日、居酒屋で喫煙者が隣に座ってしまった。隣人の副流煙を吸ったがために、脳内のなにかが反応して、遠い記憶を呼び覚ましたのだろう。嗅覚というものはまことにおもしろい。

 支那中国が、尖閣諸島周辺に防空識別圏を設定した。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/131123/plc13112312410007-n1.htm
 上記のURLは産経新聞のものだが、朝日新聞にも1面に載っている。ついに支那中国は日本の領海にその触手を伸ばしてきた。緊張の度合いはかなり高まったと見ていい。この状況は、菅政権のおりの仙谷官房長官の場当たり的な対応によって生み落とされている。仙谷由人がこの国にもたらした害悪は大きい。政治家の資質が国の方向を誤らせる典型となった。

 天保13年11月24日のことだから、170年ほど前になる。信濃松代藩佐久間象山は「海防八策」なるものをまとめて藩主に上申した。これが優れて先見性のあるものである。
 イギリスに侵略されている清帝国を例に出して、いずれイギリスは日本にもその触手を伸ばしてくるだろうと前置きをし、その対抗策を8つ並べた。
1、砲台の設置など軍備を高めること。
2、銅の輸出を止めて、その銅で大砲を鋳造すること
3、西洋型の船舶を建造し、難破事故が起こらないようにすること
4、海運担当役は人選に気をつけて外国との駆け引きや海運に関する諸問題を厳正に処置させること
5、軍艦を建造し、海戦戦術を充分に訓練すること
6、田舎の隅々まで学校を建設し教育を盛んにすること
7、賞罰のけじめを明らかにし、民心が常に団結するようにすること
8、能力によって人材を登用できる制度を確立すること
 ざっとだが要約するとこんなことになる。
 国を守るのには軍備が必要である、そんなことは170年前から一向に変わっていないのだが、なぜか「平和平和」と唱えるだけで国を守れると思っている田嶋陽子のような人もいる。平和なことですな。
 きわめてリアリストだった象山は、砲台を造り、大砲を備え、海運を盛んにして、軍艦を建造しろと主張する。そして国民に教育を施し、国民レベルを上昇させることが、欧米列強から国を守る手段であると言う。
 日本はその後、象山の指示どおりに実行したから、欧米列強の植民地にならずにすんだことは歴史に残されたとおりである。
 このことを書くために『日本の名著』シリーズの「佐久間象山」を再読した。そしてあらためて象山のプランがじつに明敏な国防策であることが理解できた。象山プランが上申され、四半世紀後に日本は植民地にならず、半世紀後に清帝国を退け、60年後に欧米列強の一角を崩すことになる。またさらに40年後、つまり「海防八策」の上申後100年で、欧米列強を相手に壮絶な戦いを繰り広げた。

 国土を侵そうとした欧米に対して日本は小国ながら100年にわたって抵抗をしてきた。太平洋戦争などその永い戦いの終盤戦と言っていい。最終的に日本は刀折れ矢が尽きてしまったが、日本人の誇りは残すことができたと思っている。
 アジア帝国をもくろむ某国が牙をむいたとき、勤勉な日本人がどう変貌するだろう。寄って立つ郷土の危機を嗅ぎ取ったとき、どんなに強い記憶を呼び覚ますのだろうか。