攘夷沸騰す

 夕べ、リビングで読書をしていた。テレビがついていて、NHKの「龍馬伝」が流れていた。ワシャは、NHK大河は作り事が多いので見ないことにしている。だから読書に没頭していた。それでも時折俳優が大きな声を出すので、ちらちらと画面を見る。龍馬が土佐に帰国して、武市半平太らが土佐藩内で攘夷運動を起こそうとしている安政5年(黒船来航から5年、明治維新まで10年)あたりの話をしているようだ。
 雨上がり決死隊の宮迫の声が大きいのでついつい意識をもっていかれる。宮迫の役は平井収二郎という土佐藩下士である。武市半平太らとともに土佐勤王党を結成していく攘夷派の一人で、常に「攘夷!攘夷!攘夷のためじゃ!」とお題目のように攘夷を叫ぶ過激派だった。彼らは一時、藩内で主流派となるが、藩主山内容堂復権により壊滅的な打撃を受け、残念ながら平井もその兄貴分の武市も維新の黎明を見ることはできなかった。
 平井たちが命を賭して叫んでいた「攘夷」は明治政府になってあっけなく廃棄される。当時の日本国の力量では欧米列強に戦をしかけることなど不可能だったのである。武市や平井が「攘夷」を叫んでいるころ、すでに賢明な識者は「攘夷」は無理だと踏んでいた。例えば、この後に三条木屋町で暗殺される幕末きっての思想家の佐久間象山、あるいは越前藩主松平春嶽の政治顧問の横井小楠あたりであろう。
「攘夷などできるわけがない。しかし、革命を起こすためにはバカを攘夷で踊らせる必要がある」
 と思っていた。だから幕末は沸騰し、維新の回天はなり、明治政府ができ、攘夷思想はあっけなく捨てられた。要するに革命のための便法でしかなかったのだ。

 宮迫演じる平井収二郎の血走った目を見て、思い当たった。今、しきりに叫んでいるお題目があるよね。「エコエコエコ」っていうやつ。この間、仕事であったNPOの代表も「エコ!」って叫ぶときに目が血走っていた。
 あるいは、何かが変われば「エコ」などというお題目はあっさりと捨てられてしまい、あの時「エコ」に奔走したことはなんだったんだろうという時代が来るような気がしてしかたがない。
 戦国期も幕末も、ずるいヤツが狡知をめぐらし、バカを走らせる。そういったシチュエーションは変わらないということだわさ。