倉本さんの気持ち

 頼むから警察はきっちりと仕事をしてくれ!
http://sankei.jp.msn.com/region/news/131009/tky13100910410000-n1.htm
 普通の住民、健全な市民には、暴力に対抗する術がない。それを代行してくれるのが警察でしょ。警察が動かずして誰が市民を守るのか。
 以前から言っているように警察ほど旧態依然としたお役所はないと思っている。もっとも動きが鈍い役所と言っても過言ではあるまい。

 被害者は脚本家の倉本聰さんのお姉さんのお孫さんである。聡明なお嬢さんで、血統からいって、きっと倉本さん同様、芸術に高い能力を発揮したことだろう。将来、大女優になったかもしれない大切な命を、狂犬の牙から守ることができなかった警視庁の無能さはいかばかりであろうか。

 大学、演劇、留学、女優……輝きに満ちた永い人生のとば口に、沙彩さんはようやく立ったところだった。これから始まる素敵な人生を、ほんの些細なことで魔に魅入られてしまった。外人だかなんだかよくわからない無職の執念深い自己中男に踏みにじられてしまった。彼女の無念さを思うと、心が痛む。ご冥福をお祈りするとともに、必ず天国はあるから、彼女がそこで、高峰秀子杉村春子に指導を受け、天国芸能界の素晴らしい女優になることを信じている。

 倉本聰さんのエッセイ集『富良野風話』(理論社)に「復讐」という題の短文がある。アメリカのアフガン侵攻を批判したものなのだが、その中で例え話としてこんなフレーズが出てくる。
《家族が暴漢に突如襲撃され、罪もないのに殺されてしまう。父親は激怒し、これを警察に委ねるより先に、自分で殺す!自分の手で復讐する!と一族郎党に働きかけ、暴漢をあぶり出しあくまで自力でその一派に復讐を開始する。》
《暴漢に家族を殺されたものは、力さえあればその暴漢に直接復讐してよいものなのか。》
《大国はあくまで大国の理性を失わず、暴漢に家族を殺されて激怒する地方の権力者になってほしくない。》
 原稿用紙3枚程度の文章なので、この「暴漢」の喩の部分がけっこうな割合なのだ。
 はからずも、倉本さんがその「一族郎党」の中に入ってしまった。すでに暴漢は逮捕され、その身柄は司直の手に委ねられている。事件は、エッセイで倉本さんが望まれたように冷静な展開を見せている。
 でもね、永年の倉本文学のファンとしては、冷静なインタビューはさておき、実際に今回の悲劇を倉本さんがどう捉えているのかを知りたい。感情豊かな倉本さんゆえに、発言とは裏腹に、内心は煮えたぎっておられるのではないか……そんな気がしてならない。